第17話 迷宮とホムンクルスの行進②
***
「良いぞアイシェン!奴の敵意は貴様のいる頭上に向き始めた!今なら足元に近づいても大丈夫だろう!!」
「わかったファフニール!……よし、サン先生!!」
「はいはい」
サンはよりいっそう攻撃する手を強めた。
これがサンの作戦である。
あのやぐらがどのような攻撃方法をするのかはわからないが、とにかく上からサンの矢の雨と、アイシェンの斬撃を繰り返して敵意を上に向け、程よいタイミングをファフニールが見極める。
とはいえあのやぐらは、迷路のように謎の手を伸ばしてくるわけでもなく、ただ左右に揺れて暴れるか、もしくは強風を吹かせるだけであった。
そして足元にスキが生じて、アイシェンは難なく内部に突入することが出来た。
その間もサンは攻撃を続け、内部のアイシェンに気付かせないようにする。
シントウの身体能力とサンやアイシェンの技術がなければ出来ない作戦ではあったが、無事上手く出来そうだ。
「……これかぁ」
ホームズの言うとおり、内部の構造はとても簡単だった。
暖簾のようなものを潜って、少し前に進めば、すぐそこに真っ赤な球体の
「これを壊せばいいのか」
外ではサンの矢の雨がこのやぐらに降り注いでいた。
このときアイシェンはふとした疑問を覚える。
パラケルススは何のためにこの名技を出したのか?
それだけじゃない。どうしてわざわざこんな広い場所が必要な名技を、シェイクスピアは迷路でスペースを取ったのか?
「まぁ……考えるのは俺の仕事じゃないしな!!せぇのぉ!!」
ガキン!!と鈍い金属音が響いた。
そしてだんだんと、鮮やかな赤から、酸素を運び終えたヘモグロビンのようにどす黒い赤へと変わっていった。
(これでいいのか……?『千里眼』!!)
千里眼で外の様子を見ると、パラケルススの名技は完全に機能を停止していた。
空はすっかり暗くなっている。この名技は本当の祭りのように強い光を放っていて、時間感覚がわからなくなっていたのだと今さら気付いた。
確認を終え、入ってきた時と同じく暖簾のようなものを潜って外に出た。
「アイシェン、無事か!!」
「ファフニール、俺は大丈夫だけど……こいつは動かなくなったんだな」
「あぁ……今はできるだけ早く寮に――」
メキョ。
「ん?ファフニール、今変な音しなかった?」
「気のせいじゃないか?」
メキョメキョ。
「やっぱり何か変な音が」
「信じなくてすまなかった、ここはまずい!離れるぞ!!」
――メキョメキョメキョメキョメキョ!!
ファフニールのその予感は見事に的中した。
アイシェンが倒したそのやぐらは、周囲の瓦礫を巻き込んで先程の
しかし、事態はこれだけでは収まらなかった。
球体の形状と化したその物体は、四本の足を生やし、蜘蛛のような形状へと変わっていった。
「……なんだよあれ」
『メイキング・パレード』
パラケルススが呼び出したその名技は。
まるで蜘蛛のような、やぐらともホムンクルスとも形容しがたい怪物に変化を遂げていた。
***
『マフユノ空のお星サマ 今日もヒシャクヲテラシマス』
「……………」
『ソラトビカミノ名のモトニ アクハ正義にテッツイヲ』
「銀髪参謀、こいつは何を言ってんだ?」
先程壁から飛び出してきたホムンクルスは、腕を斬り飛ばされて悲鳴をあげるわけでもなく、ただ意味不明な言葉をずらずらと述べていた。
それを見て、ジークはうぅんと唸りながら顎に手を当てる。
「柄杓を照らします……北斗七星の事かな?でも、空飛神?なんだろう……」
「ねーそんなの考える暇あるなら、こっちを手伝ってほしいのさ!!」
バルムンクは壁の中から現れ続けるホムンクルスを次々と斬り倒している。
ちなみにホームズは一切戦闘に参加せず、モルドレッドの後ろに隠れている。
「ホームズ!その腰につけてる魔力銃は飾りなのさ!?」
「頑張れー、今のバルムンク、まるでヒーローみたいだよ」
「えっホント?うぉぉやる気が出てきたのさぁ!!」
「チョロいねぇ……しかしこの壁、取り込んだものを粉々に砕くことしか出来ないと思ってたけど、砕くものと砕かないものを分けられるのかな? 」
ホームズのその疑問に、ジークは答える。
「……あのシェイクスピアが選んでるんじゃないかな?この壁出したの、彼女だし」
「むぅしっくり来ないなぁ……およ?」
遠くから何か、鈍い音が聞こえた。
例えるなら、大きな滝の流れ落ちる音のような、巨大な何かが走っているような。
そういえば、パラケルススのやぐらが見えなくなっていると、ホームズ達は気づいた。
「みんな!逃げろぉ!!」
そしてファフニールに背負われて、蜘蛛のような何かから逃げているアイシェン達にも気づいた。
「ちょ……うわぁぁ!!コーヒー侍てめぇ、何連れてきてんだ!?」
「あ、ホムンクルス食べてる……いやどこで食ってんのさあれ!!」
「食べたというより取り込まれた感じなのね。討伐が楽になったと考えれば……」
「ねぇアイシェン君、何があったの!?」
「えと……あれでこれでかくかくしかじか」
「うん、わかんない!!」
その時空から大量の矢の雨が降り注いだ。
蜘蛛の形状をとった何かは、撃破や消滅とまではいかなかったが、足止めにはなったようだ。
「サン先生!」
「気を抜くなアイシェンさん!とにかく今は攻撃を!!」
アイシェンはファフニールから降りると、腰に掛けていた刀を抜いた。
それを見てモルドレッドも剣を構える。
「思いっきりでかい攻撃して、このポンコツ蜘蛛を壊しちまおうぜ。もちろん、邪魔する奴等も全員ぶっとばして、な!」
その言葉に、アイシェンはただ、「あぁ!」と返した。
そして。
「……シントウ流剣術『其の壱 一閃』!」
「
アイシェンの刀から一直線に延びる光。
モルドレッドの剣から流れる赤い雷。
誰が見てもこれは、両者の本気に近いものだとわかる。
しかし。
「……なに!?」
驚いたのも束の間。
蜘蛛のようなそれは、まだ生きていた。
もしかするとダメージは蓄積されてるのかもしれないが、これでは倒れない。
「くっそぉ……こうなったらオレの本当の全力で――」
「それは悪くないけど、時間めっちゃかかるよ」
唐突に現れた聞き慣れない声。
その声の持ち主は空に浮いていた。
白髪のセミショートと、赤と青のオッドアイ。
整った顔立ちと小柄な体格。
意外にも低い声を聞かなければ、女性と間違えてしまいかねない容姿だった。
そしてその人は――
「待たせたね!ボクらの呪い サクソンよ
敗北を認めよう 全てを消そう 我らの勝者を作れ!
そしてここに、勝利を宣言せよ!
第一名技
『
声高々に詠唱を終え、真っ白な体躯を持つ、強大な竜を呼び出した――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます