第14話 ハムレットの迷宮②
***
――モルドレッド&バルムンク
「『
「『バルムンク・ビーム』!!」
二人はシェイクスピアの作り出した壁に向かって技を放った。
しかしそれも一瞬の穴を開けるだけで、またすぐに再生してしまう。
埒があかないと考えた二人は攻撃をやめた。
「ちっ、どうなってんだこの壁は?近づいたら吸い込まれるし、かといって破壊することも出来ねぇ」
「むぅ、こうなったら、ちょっと不本意だけど真面目に迷路を攻略するしかないのさ」
「それは良いけどよ。それよりさっきの『バルムンク・ビーム』て何だ?」
「ジークと一緒に考えた、わちきの名技(笑)なのさ!ほら、わちき自身が名技だから名技無いし」
「正直な話、だせぇぞ?」
二人は歩きだした。
先頭をモルドレッドが進み、それにバルムンクが付いていくという態勢である。
その最中、何度かパラケルススが村人を使って産み出したホムンクルスを蹴散らし、モルドレッドは目的の場所についた。
「ここは騎士団寮前の広場なのさ」
「あぁ、確かここにはダブルホーンが戦ってたはずだからな。いると思ったんだが……外れだったな」
それよりモルドレッドは、この迷路の広さが気になった。
どこまで歩いてもゴールが見えてくる気配はなく、ただ迷わせるためだけに作ったとしか思えない。
「ところでモルドレッド団長、一つ聞きたいのさ」
唐突にバルムンクが尋ねる。
「何だ?」
「ジークはどこなのさ?」
「壁が現れたときに離れちまったみてぇだな。ま、どうせすぐ会えるって、別れた場所もすぐ近くだったんだからさ」
「それならもう会ってないとおかしいのさ。これってつまり、敵がわちき達が他の人と合流できないように仕組んだってことじゃ?」
バルムンクのその言葉に、モルドレッドは黙った。
そして、あることに気づいたバルムンクが再び発言する。
「それに、さっきからホムンクルスとめちゃくちゃ出くわしてるのさ、本当ならこの広場でファフニールが押さえてるはずなのに。これって、ジークとかアイシェンとかの方にも沢山行ってるんじゃないのさ?」
「……銀髪参謀の戦闘力は?」
「皆無なのさ」
「予定変更!!今すぐ銀髪参謀を探しにいくぞ!!」
***
シェイクスピアの迷路を駆ける、銀髪の少女が一人。
「う、うわぁぁあッ!!」
Blood Thunder騎士団が参謀、ジークフリート。
彼女は迷路が出来上がってすぐ他の仲間と合流しようと歩いていたが、その途中途中でホムンクルスと出会ってしまい、まるでハーメルンの笛吹男のように連れている。
現在付いてきているホムンクルスは三人程度だが、ジークフリートはバルムンクがいないと戦うことは出来ない。
「こ、来ないで、来ないでぇ!!」
絶体絶命のこの状況を救ってくれたのは、
「はぁあッ!」
一度の蹴りでホムンクルス三人を壁にぶつけ吸収させたのは二本の黒い角を持った少女、ファフニールであ――
「チェンジ!!」
「うぉい!!」
――思わず救世主は叫んだ。
「いや貴様、何だチェンジって!?」
「叫びたくもなるわよ。まず何でファフニールがここにいるの?騎士団寮前を守ってたんじゃ?」
「エメージュ・モーツァルト……ミュージックが来ていてな。そしてこの壁が現れたと同時に逃げ出し、あとを追いかけた。ホムンクルスはあらかた片付いたからな。ところで、アイシェンとサンはどこに?」
「知らないわよ……もう、こうなったら皆と合流するまで私を守って」
「貴様は手を貸さないのか?」
「私は弱いし……」
ファフニールは一瞬断ってやろうかと企んだ。
しかしアイシェンやサン、自分にもない作戦を考える能力に秀でた、参謀であるジークフリートがいなくては敵は倒せないと思い直した。
二人は歩きながら言葉を交わすが。
「どうにもホムンクルスの数が妙だな……。この村の者を再利用しているにしては多すぎる。この村の人口はせいぜい百人くらいではないのか?」
「理由として考えられるのは、この村の人たち以外のホムンクルスを連れてきてるか、ホムンクルスが丈夫で、多いように感じるだけか」
「もし前者ならば、あのパラケルススという男は相当なクソ野郎だな」
「同感」
あまり盛り上がる話とは言えなかった。
状況が状況であるため、仕方ないと言えるが。
ふと、ファフニールは思い出したかのようにジークフリートの方を向いた。
「そう言えば、いつか聞こうと思って忘れてたのだが……貴様は『竜殺しの民』か?」
「……………」
ジークフリートは何も返さなかった。
その表情はどこか、自分の親の敵を見つけたかのような黒い感情が見てとれる。
――竜殺しの民
アイシェンやサン等がいるシントウの民と同じく、戦うことに特化した戦闘系民族。
実力で言えばシントウの次に位置する戦闘民族であるが、シントウは目的を持たずに戦うのに対し、竜殺しの民はその名の通り竜を殺すことを目的に戦っている。
しかし現在では討伐する竜も少なくなり、用心棒や雇われの身として戦うことが増えた。
また、シントウの民が自分達しか信用しないのに対し(アイシェンやサンは例外)、竜殺しの民は条件次第でどんな仕事も請け負う。
「そして竜殺しの民の特徴は、目を奪われるほどの美しい銀髪。竜に対する勘の鋭さ。それがあれば、例え人型に化けていても竜を見つけられる」
「正体バレたくないなら、まずはその目立つ角を何とかしなさいよ……」
そう言われて、ファフニールは額にある角に触れた。
そういえばあったなと頬を掻く。これならどんなバカでも自分が竜だと気付けるだろう。
(待てよ……そういえば一人いたな、これを見ても竜だと気づけないバカが)
あれはただの世間知らずだっただけなのかわざと気付かないフリをしていたのか。
「で?天敵が目の前にいるからって殺すつもり?」
「まさか。バルムンクを持ってない貴様など始末しても意味がない。我が聞きたいのはそれではなく――」
一呼吸おいて、呪いを込めるかのように彼女は言った。
「ジークムントという名前に聞き覚えはあるか?」
刀とナイフがぶつかり合うような金属音が二人の頭上より響いた。
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