美女に襲われるのは好きだが、こういうことではない
万丈波乱、異世界に放り出されました。
あの野郎、自分が悪いと言っておきながら俺ちゃんを放り出しやがったよ。
かこの場所がどこにあって世界がどうなっているのかも全くわからない。
ここまでするか普通。
いやさ、断った俺ちゃんも悪いとは思うけど、一毛くらいの割合でさ。
だって急に呼び出されて初めてあった人に「命をかけて我々のために戦ってください」なんて言われてもねえ。俺ちゃんは嫌だよ。
これからどうしよう。
餞別と言われ、袋を渡された。その中には少しだけ硬貨が入っていたがこれがどれくらいの価値があるのか全くわからない。
宿ない、服ない、飯ない、ないない尽くしだよ。
あの野郎、なめんじゃねえよ。
ゴキブリよりも生命力のある俺ちゃんをなめんじゃねえよ。
生きてやるよ、生きてやるよ!
無理だわー、異世界案外キツイ。なんだよ、もうちょっとチョロいと思ってたんだけど、何をすれば良いのか分からねえもんだなぁ、おい。
今日は町の散策をして1日を終えてしまった。
空は真っ暗になって今は夜の時間。
俺ちゃんは公園のベンチに座り、背もたれに体を預けながら雲ひとつない夜空を見上げた。
夜空には満天の星空が広がっている。こうやってユックリと星空を見たのなんていつぶりなのだろうか、かなり酷い現状であるはずなのだが、何故か自然と明日も頑張ってみようと思えてしまう。
そういえば、ここは異世界だから元いた世界とは星が違うのだろうか……俺ちゃんは天文学者じゃないから星の位置とか星座はわからない。まあ、だとしてもあんまり関係ないか。
「……にしても、流石に夜は少し冷えるな」
夜風が俺ちゃんに厳しい寒さを教えてくれる。凍え死ぬ程の寒さではないが、それでも結構体にきてしまう寒さだ。
早く寝床を見つけないとこれからの生活は厳しくなるかもしれない。
「ここまで冷えてくると、少し小便がしたくなるんだよなぁ……てか結構限界?」
ベンチから立ち上がり、小便ができそうな場所を探す。結構大きめの公園だから公衆便所の一つくらいあってもいいと思ったのだがそれらしき建造物はどこにもなかった。
まぁ今の時間は人が全くいない深夜だから、最悪の場合はどこかの茂みに隠れて立ちションでもすれば良いだろう……てかしよう。
マジ限界。
「他の奴らは今頃美味い飯を食って、ヌクヌクのベッドで寝てるんだろうなぁ……俺ちゃんは寒空の下で立ちションですよ。はぁ、キッツ」
良い感じの茂みが見つかったのでそこまで移動して、俺ちゃんは学生ズボンのチャックを下ろすとご自慢のモノをドーンと外界に出した。御自慢のモノだからな、本当に御自慢なんだぞ。
……ふぃいい。
「寒………ぅゔぇくしょん!!」
──シュッ!!
放尿感とともに訪れる寒気のせいでくしゃみが出てしまった。くしゃみの勢いで首を振り、今まで頭があった場所を高速で何かが通過した気がするが気のせいだろう。
顔を上げると、目の前の木の幹にナイフが突き刺さっていた。その場所は俺ちゃんの頭の高さと同じくらい。くしゃみをしていなければ後頭部にナイフが突き刺さっていただろう。
「………え?」
息が止まってしまい、小便も体内に残っているのに中途半端なところで止まってしまった。
「………………………………刺さっとるやん」
「運の良いやつだ。避けなければ苦しまずに死ねたのに。その運の良さが貴様を苦しめることになるとはな」
背後から声が聞こえた。
御自慢のモノを出したままなので上半身だけ動かして背後を振り向くと、そこにはピッチピチのボディスーツ?ってヤツを着た仮面をつけた女性が立っていた。その手にはナイフが握られている。
なんで仮面をつけているのに性別がわかったのかというと、ハッキリ言って体型だ。結構エロい身体つきをしている。しかもそれがボディスーツってヤツで強調されている。
露出が少ないのにエロスを感じちまう。
ハッキリ言おう、俺ちゃんは抱きたい。
脳天思春期だから、発情してるからしゃあない。
……てかそんなことを言ってる場合じゃないな。
俺ちゃん結構ピンチじゃない?
モノ出したまま襲われるのとかキツイんですけど。
「あー、あのさぁ。暗殺しにくるのは良いんだかどぉ………ちょっと待ってもらえませんかねえ?1分……いや、30秒くらい。全部出して、しまうので……ほら、オタクもさぁ見たくないでしょ?だから──」
「これから死ぬならそんなことどうでもよかろう!!」
ナイフを構えながら女性が俺ちゃんに迫ってきた。いや、嘘でしょ?
いや、問題は俺ちゃんじゃないのよ。そちらの問題なんだよ。俺ちゃんは見せてもいいんだよ、一切恥ずかしくないから、でもそちらが衝撃を受けることになるだけだと思うんですけど。
俺ちゃんはそれを心配してるんだよ。
「待って!!」
イチモツをしまう暇もなく俺ちゃんは横っ飛びで攻撃を躱した。危な!確実に喉に向けてナイフを振ってきた。
殺すつもりだ。
てかなんなんだよコイツは。俺ちゃんが何かしたというのか?命を狙われるようなことをしたのか?
………思い当たる節があるとすれば城での出来事だけだ。というかへそれしか思い当たる節がない。
だとすれば差し向けてきたのはアリシアとかいう皇女様ではなく、あのイケメン野郎だろう。
ヤロー、こんな美女を侍らせていやがるのか。羨ましい限りだぜ。
次々と俺ちゃんに向けて飛んでくる攻撃の数々は確実に急所に向けて飛んでくる。
容赦なんて一切感じられない。
殺すことに慣れているのか?職業殺し屋というやつか?それとも直属の兵隊か?
まぁ、どうでもいいや。
死にたく無いから!!
近づいてきたところを垂直に蹴り上げ、襲撃者を蹴り飛ばした。襲撃者がつけていた仮面が吹き飛ぶ、これで面が拝めますぜ。
「当たりィ……イッ!?」
蹴り飛ばしたところまでは良いがカウンターでいつのまにか横っ腹にナイフが突き刺さっていた。
何時の間にやられた?早え。
襲撃者は空中で華麗に体制を立て直して、着地するや否や素早く俺ちゃんに迫ってきた。
待て!!
「別嬪さんだぁ!!」
仮面の奥には可愛らしくて美しい女性の顔がありました。一つ飛ばさず別嬪さんだよ!!
ヤベェ、普通に顔面蹴っちゃったよ。興奮しそう。
「黙れ!!」
振るわれるナイフ、飛んでくる蹴りと殴打の数々。逃げろ逃げろ、攻撃は当たりたくないので全力で見極めてかわしていく。
行ける、俺ちゃん今いけてるよ!!
このままなんとかして逃げれば──
──コツン
現実はそんなに甘くない。
後ろに下がりながら、何かの段差に躓いてしまった。
後ろに向きに倒れていく俺ちゃん、そんな俺ちゃんに向けてナイフを付き刺そうとしにくる襲撃者の別嬪さん。
ゆっくり見えてしまう。極限まで集中したらこういうことになるのだろうか。
ナイフを掴んでいる方の襲撃者の腕を掴み、体を捻りながら柔道の技のように彼女を地面に投げて押し倒した。
「シャア!!形成逆転!!フハハハ!!どうだ、流石俺ちゃん!!やればできる子!!」
マウント状態になり、拳を硬く握り締める。襲撃者が何かを使用とした瞬間、俺ちゃんの拳が彼女の顔面に向けて飛んでいくのは間違いなし。
それにしてもこの状況は酷いな。イチモツをさらしている男がピッチピチのエロめの服を着ている女性を押し倒している。
…………性犯罪じゃないか!!
何も知らない人間がみれば俺ちゃんが百パーセント悪い。逃げ道が一切ない。
「………助けて!!襲われる!!犯される!!」
「あ!やりやがったなテメェ!!!!」
こいつ俺ちゃんが一番して欲しくないことをしてきやがった!!
ピンポイント過ぎるだろうが!!
ヤバイ、人が来る前に片付けないと。その前に近くに人がいないか確かめないといけない。
俺ちゃんは一瞬だけ視線を彼女から逸らし、彼女はその一瞬の隙をついて反撃をしかけてきた。
「そら!!」
──キーーーーーン
そんな音が頭の中で響いてしまった。実際には一切そんな音は出ていないはずなのだが、聞こえちゃう。
急所に当たっちまった。当てられちまった。玉はやめてよ、玉は。
痛みのあまり飛びのいてしまう。
襲撃者も立ち上がり、襲いかかってくる。
金玉の痛みを我慢しながら、再びよけていく。だが玉の痛みが酷すぎて集中できない。
逃げないと。
最近調子が出ないから、調子がよければ彼女なんて速攻で倒せるんだからね!!
これ以上の戦いは無理だと判断して俺ちゃんは逃げることにした。全力ダッシュだ。
「逃すか!!」
襲撃者ももちろん追いかけて来る。だがそんな簡単に追いつかれてたまるか、俺ちゃんはこう見えて足が速いんだよ。
逃げる逃げる。
何も考えずにひたすら走る。イチモツをさらけ出したまま、横に縦に降りながら夜の街中を走り抜ける。
…………完全な露出狂じゃないか。
何処までも追いかけてくる。何処までも走り続ける。
体力が続く限り続くと思われていたこのチェイスも、意外な形で終わりを迎えた。
立ち止まってしまった。
「………川だったか」
俺ちゃんの目の前に川が広がっている。慣れない土地だから仕方がないと言いたいが、この状況では言ってられない。
振り返る。
彼女が追いかけて来てないか振り返る。
一本、飛んできたナイフが俺ちゃんの左肩に突き刺さる。
二本、三本と何本ものナイフがお
ちゃんの体に突き刺さっていく。
「手こずらせてくれたな。だがもう終わりだ」
襲撃者はユックリと俺ちゃに向けて歩いてくる。
「こんな綺麗な女性に殺されるのか?それだったらせめてベッドの上で死にたかったなぁ」
「減らず口を!!」
襲撃者が投げてきたナイフが俺ちゃんの喉に突き刺さる。ヤバイ、これは急所だ。普通だったら間違いなく出血死するやつだ。
異世界初日から死ぬのか?結構過酷だな。
最後に投げられたナイフが心臓に突き刺さる。
ユックリと……俺ちゃんの意識が消えていく…………………
──バッシャアアアン!!
ナイフ塗れの万丈波乱が川にむけて落ちていく。大きな音と水しぶきをあげながら水の中に沈んでいく。
あの量のナイフが突き刺さっていれば確実に死ぬだろう。もしそうでなくてもいずれは襲撃者がナイフに塗った毒で死ぬはずだ。
「追いかける必要はないな」
襲撃者の女性は川の中を覗き込む。万丈波乱は沈んだか、それとも何処かへと流れているのかわからないが浮上してくる気配はない。
「……しかし、なぜあのようなモノを殺せと命令してきたのか……無視すれば良いモノを………まぁ、私が考えても意味のない話だ。恨むなよ、これが私の仕事なのだから」
衣服を整えた後、襲撃者は夜の街に消えて行った。
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