真上には星がある

そういう星の元に生まれてしまった事を呪え。


誰かに言われたその言葉を何年かたった今になって思い出していた。そしてある言葉を言い返した事も思い出した。


ならその星のない異世界に行ってやる。


渾身の返しだと思ったよ、あの時の俺ちゃん。だって凄いドヤ顔してたもん。近くに偶然あった鏡に写り込んでいた俺ちゃんの顔、凄かったぜぇ、これがドヤ顔ですって言ってるようなものだったもん。


でもさあ、今になってあの時の俺ちゃんに言ってやりたい言葉があるね。




異世界にも、その星はあったよ。







「このパターンは初めてだなぁ」


なんかよくわからねえ豪奢な建物の中で、滅多にない新鮮な経験に感動していた。


ここはどこだ、何が起きたんだ、なんていう反応をしていたのはずっと昔。今となっては落ち着いて周囲の状況を観察できるほどに達観してしまっている。


「俺ちゃん直ぐにわかるよ。今までの経験から直ぐにわかっちゃうよ、これってアレだろ?アレだよー」


答えはなんとなくわかってはいるが口には絶対に出したくはない。


このパターンは流石に初めてだ。バーチャル空間は何回か経験したことがあるが、異世界は初めてだ。


え?なんで異世界だってわかるのかだって?


そんなのアレだよ。


俺ちゃんだからわかるんだよ。


「おいおい、どうなってんだよ」


「わからねえって」


周りを見れば新鮮な反応をしてくれる人間がチラホラ────じゃなくてモッサリといる。その数はおよそ千人以上。千人まで数えて、そして飽きてしまった。


てかこれもしかしたら学校の生徒全員いるのか?


だとしたらヤベエぞ、この学校中高一貫の私立高校だぞ。しかもかなりのマンモス校。


「なんだよ此処?」


「異世界ってやつか?」


良いよなぁ、あんな新鮮な反応、俺ちゃんも昔はしてたんだけどねえ。今はできないもん、でも楽しそうなんだよなあ、やってみようかなぁ。


やっぱやめておこう、あとあと恥ずかしさで枕を汚してしまいそうだ。


ていうかよくよく見れば男女其々が同じ格好をしている。そうか、俺ちゃんも含めてこいつら同じ学校の人間なのか。滅多に学校に行かないからわからなかった。


そう言えば今日は珍しく学校に行けた日だった。ウキウキと軽くスキップして不審者と思われながら登校したんだった。


そして異世界。


いやぁ、マジで名前をつけたやつ許さない。


万丈波乱は波瀾万丈、いやになりますよ。


「異界の勇者の皆様!」


そして姿を現したのは金髪、紅眼の王女らしき高貴な俺たちくらいの年齢の女性だった。


くぅーッ、テンプレェ!


そうそうこういうので良いんだよ。変にキをてらわなくて。真正面から堂々と王道をぶつけてくれれば俺ちゃんは嬉しいんですよ。


最近は変化球が多すぎてムカついてたんだよ。


「私の名前はアリシア・ゼウルガルド、このゼウルガルド帝国の第七十七皇女です」


帝国で皇女で第七十七ですか。欲張りだなぁ。


というか七十七皇女ってなんだよ。この国の王様はどれだけの数の側室がいるんだよ、ハーレム王ってやつなのか。性欲つえなおい。


なんですか?次は一体何が来るというのですか?


魔王ですか?テロリストですか?それとも、なんだ?


「皆様を紹介した理由は他でもありません」


待って、言わないで当てるからさ。今召喚した理由を当てるからさ。


わかった、敵国との戦争だ!


「皆様にはこの国に起きている問題を解決していただきたいのです!」


外れたぁ!


ちょっと周囲を見渡せば勇者と呼ばれてテンションの上がっている皆々様。そうだよねぇ、非日常ってちょっとだけ憧れちゃうもんね。高校生だったら尚更のことだよね。


お姫様らしき人の演説はどんどん続いていく。


うわぁ、スゲエ。この人スピーチの練習メチャクチャしてるよ。だって物凄く上手なんだもん。聴衆の心をキチンと鷲掴みにしてるよ。


でもなんだろうなぁ、この違和感は。彼女からは皇女様の気品と同時に何かヤバイものを感じ取ってしまう。


もしかして意外と腹黒い?


周囲にいる人間はドンドン王女の演説に乗せられてテンションが上がっていく。これがカリスマというやつなのかスゲエな。


「皆様、我々に手を貸して頂けますか!?」


そして演説は最高潮に達した。


「嫌です!!」


なので取り敢えず水をぶっかけて熱を冷ますことにした。


周囲の目線が一気に俺ちゃんに向けられる。千人が二つの目で見てるから合わせて二千以上の視線が俺ちゃんに向けられている。ヤベェ、変なスイッチ入りそう。


「え?」


王女様は素っ頓狂な声を上げ、大口を開けて驚いていた。あれ?俺ちゃんの返答が予想外だったのかな?


キリッとした顔よりも今の表情の方が可愛くて俺は良いと思います。


「嫌ザンス」


「え?」


「嫌でガンス」


「え?」


何度も聞き返さないでくれよ、困っちゃうだろ。


「……へぇ」


あれ?今皇女様ちょっとだけ雰囲気かわった?なんか俺ちゃんのことを値踏みするような、価値があるかどうかを見定めるかのような視線をほんの僅かな時間してきた。


んー、今の目つきの方が俺ちゃん的には好みかなー。てか、多分こっちが本性だ。


「どうしましょう?」


そして直ぐに元に戻った。


其方も困ってんじゃないよ。困りたいのは俺ちゃんたちの方なんだけどなぁ。


ていうか、もしかして。


それとも今の演説だけで俺ちゃんが貴方達の要求に応えると思っていたのだろうか。俺はそこまで軽い男じゃないよ。そんな簡単な男じゃないさ。


そんな簡単にあなたたちの思いどうりにはならないのよ!!


そこまで尻軽と思わないでよ!


「あ、あの」


オロオロオロオロと首を振っている皇女様。本当にどうすれば良いのか全くわからないようだ。彼女の頭の中では彼女のスピーチに皆んなが感動して、バケモノ討伐しちゃうぜっていう流れだったんだろうなぁ。


残念でした。


ていうか今の彼女の様子も演技か?なんか、少しだけ変な感じがする。


ていうかこれ演技だわ。この子完全に猫を被ってやがりますなぁ。せっかくなら猫耳と尻尾もつけて欲しいものですな。


「落ち着きなさいアリシア」


とここで漸く助け舟が出てきましたよ。でも遅いなあ、彼女既に頭の先まで溺れてるもん。


声を出したのは一人のこれまた高貴そうな見た目と立ち振る舞いをしている男性だった。


金色の髪に碧眼のイケメン。


「……兄さん」


兄さんと彼女は出てきた男を呼んだ。


つまり彼は彼女の兄、つまりは皇子様なのだろう。イケメンで王子様ってこれはもう非がないな。変な性癖でも持ってない限り。だから持て。


「よくやった、後は私に任せなさい」


「…………はい」


兄に言われ、何か言いたげたな表情をした後にアリシア皇女は何処かへ立ち去ってしまった。


「では話を戻そうか」


イケメンの碧眼が俺ちゃんに向けられる。それだけでわかる。この男は何か凄いモノを隠し持っている。曲者だとかそういうのじゃない。なんか

凄えって感じだ。


「君は、本当に嫌なのか?………いや、わかっている。確かに急に異世界から呼び出してこんなことを言うのは本当に失礼だな。君は悪くない、悪いのは我々なのだから。君が何かを気負う事はない」


「は、はあ」


おっと、ここで自分の非を認め始めたぞ。これはあれだな、自分の立場をわざと悪くさせて周囲からの同情を得ることによって、俺の立場を悪くする技術だな。


いいよ、乗ってあげるよ。


「本当に嫌なのか」


「ええ、嫌です。危険な目にあいたくないです。デスゲームに参加したくないです。学校に行きたかったです。美女と一日中遊んでいたいです」


その時、皇子様の顔が少しだけ曇った。何か辛いことを決断した、そんな風に捉えることのできる表情だった。


こいつ演技うまいなぁ、本心にも思っていないようなことを完全に演じている。


俺ちゃんじゃなきゃ見逃してたね。


「そうか………ならば仕方がない」


さあ、何がくる。














城から追い出されました。









「フザケンナァアアアアア!!」

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