見えない夏

梔子

『見えない夏』

従姉妹同士の2人がテレビ通話する話。

ぜんぜん見えてこない夏のお話。


莉央 (15)

涼花 (15)


涼花 「もしもーし」

莉央 「おっ、見えた!」

涼花「聴こえるー?」

莉央「うんうん!久しぶりー!」

涼花「良かったぁ、久しぶりー!」

莉央「元気してた?」

涼花「まあまあかなー、莉央は?」

莉央「まあまあかなぁ。」

涼花「だよね。」

莉央「だって外出られないし、どこにも遊びに行けないんだもん。」

涼花「まあね。怖いもんね。」

莉央「動かないで寝て食べてばっかだから、ほら、ここら辺とかもちもちでさぁ。」

涼花「腹出さなくていいから。」

莉央「いいじゃーん。そういう仲だろ?」

涼花「語弊のある言い方すな。」

莉央「……はぁ、最近何してる?」

涼花「出された課題やって、」

莉央「うん」

涼花「Twitter見て、」

莉央「うん」

涼花「んー……犬の散歩?」

莉央「ま、それくらいだよね。」

涼花「そうねぇ、受験終わったらもっと色々やろうと思ってたんだけど、なんかねー。

時間あってもやらないものはやらないんだよねぇ」

莉央「そうそう。私もさ、高校上がったらもっと楽しいかなって思ってたんだけど……ねぇ。」

涼花「学校も行けないし。」

莉央「ほんとだよぉ……何のために受験頑張ったんだか。」

涼花「それな。」

莉央「華々しくデビューするつもりだったのにぃ」

涼花「デビューって?」

莉央「彼氏作るとか?」

涼花「濃厚接触じゃん」

莉央「は?手も繋いでないわ。」

涼花「まずいないしね。」

莉央「そうだった……」

涼花「私は特にそういうの考えてなかったなぁ。」

莉央「そっか。」

涼花「だって高校上がってもいつも通りだって思ってたから。」

莉央「そっか……」

涼花「いつも通りってなんだったっけ。」

莉央「わかる。もう、いつもとかないよね。」

涼花「うん、こういうこと言いたくないけどさ、戻らないのかなって。」

莉央「…………」

涼花「あ、ごめん。この話やめよっか。」

莉央「そだね。明るい話しよ。」

涼花「うん。何話す?」

莉央「んーと、昨日の晩御飯!」

涼花「食べることばっかじゃん。」

莉央「だって毎日の楽しみだし」

涼花「たしかに。」

莉央「うちはねぇ、コロッケだった。」

涼花「ふーん、いいね。うちは、餃子だったよ。」

莉央「いいなー。餃子パーティーしたい。」

涼花「そんな感じだったけどね。家族しかいないだけで。」

莉央「収束したらさ、そういうのやろ。」

涼花「いいね。なんなら、オンラインでもいいんじゃない?」

莉央「いやいや、1人で焼くの寂しくない?」

涼花「こうやって顔見えるだけいいじゃん。」

莉央「そうだけど……」

涼花「収束したらとか言ってたらいつになるか分からないし。」

莉央「そだね。大人は飲み会してるし。」

涼花「うちらだってそういうのやりたいよね。」

莉央「やっちゃお。」

涼花「餃子パーティー?」

莉央「……やっぱちょっとめんどいな。」

涼花「やらないんかい。んー、じゃあ、オンラインお茶会は?」

莉央「何それ。」

涼花「好きな飲み物とお菓子用意してテレビ通話するの。」

莉央「いいじゃん。それやろ。」

涼花「でしょ。いつやる?」

莉央「え、いつでも。」

涼花「じゃあ、週末は?」

莉央「いいけど今日木曜だよ?」

涼花「あっ、すぐだね。曜日感覚とかもうないわぁ……」

莉央「ね。毎日同じだもん。」

涼花「それな。いつもと違うことがほぼない。」

莉央「いつも、のゲシュタルト崩壊だね。」

涼花「ね。逆にさ、最近変わったこととかあった?」

莉央「体重増えた。」

涼花「それ以外で。」

莉央「えー……あっ。」

涼花「なになに?」

莉央「カーテン開けなくなった」

涼花「あ……」

莉央「はは……自堕落だなぁ。」

涼花「……」

莉央「開けてくるわ。」

涼花「いってら。」


莉央「眩しっ」

涼花「ちょっと暑くなったよね。」

莉央「そうなの?」

涼花「散歩行くからさ。その時に。」

莉央「あー、そっか。」

涼花「川沿いまで行って帰ってくるだけなんだけどさ、じんわり汗かくの。」

莉央「もうそんな季節かぁ。」

涼花「ね。昨日カレンダーめくってないの気づいてめくったもん。」

莉央「時間止まってるよね。わかる。」

涼花「5月……初夏だね。」

莉央「夏とか来る気がしないわぁ。」

涼花「でももうすぐそこじゃん?」

莉央「その前に梅雨あるよ?」

涼花「忘れてた。」

莉央「こんなのでジメジメしてくるとか病むわぁ」

涼花「ね。でも終わった頃には解除されるよね?」

莉央「そだね。でも遊べないし。学校始まるし。」

涼花「もう始まった方が良くない?」

莉央「そうだけど……」

涼花「始まる実感は湧かないけどね。」

莉央「始まったらどうなるんだろ。」

涼花「分かんない。でも、もう夏は始まってるよ。」

莉央「そうだね……季節は人なんか関係なしに進んでくもんね。」

涼花「付いてくしかないよ。」

莉央「進めるかな。」

涼花「進むしかないよ。」

莉央「そだね。止まってても何も始まらないからね。」

涼花「そうそう。」

莉央「夏、楽しめるといいな。」

涼花「プールも海も無いけどね。」

莉央「それでもなんか今と違うといいなって。」

涼花「うん……」


莉央「そろそろ、ご飯みたい。」

涼花「じゃあ、切ろっか。」

莉央「ごめんね。」

涼花「大丈夫。多分うちもだし。」

莉央「オンラインお茶会どうする?」

涼花「んー、来週でいっか。」

莉央「了解。次までに痩せるわ。」

涼花「ふふっ、私も頑張る。」

莉央「次はメイクして、ちゃんとした服着て

やろ。」

涼花「楽しみ。」

莉央「ね。じゃあ、またね。」

涼花「うん、またね。」

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見えない夏 梔子 @rikka_1221

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