第116話 誰にもなれない

何者かになりたかった 自分ではない誰かに

才能があって愛されて 多くの人に認められて

そういう人になりたかった 自分とは違う人に


いつも孤独と満たされない気持ちを抱えて

どこにでもいる普通のどころか普通以下の

名前も顔もない群衆の中に埋もれるだけ


そう 考えると安全で

妬む気持ちも 羨むことも

傷を舐めるように

生きていけると思っていた


でも考えれば考えるほど

わからなくなる 自分のことが

他人の数だけ

違う自分がいるような気がして


何者かになりたかった 自分ではない誰かに

才能があって愛されて 多くの人に認められて

そういう人になりたかった 自分とは違う人に


もしかしたら自分で思うより普通じゃない

妬んだり羨んだりした人とは違うとしても

自分が思いもしなかったような人

そんな人になっているかもしれない


そう 考えると不思議で

妬む気持ちも 羨むことも

ときには全部忘れ

得体のしれない自分を見つめた


でも考えれば考えるほど

わからなくなる 自分のことが

何者にもなれない

けど確かに何者かではあるはず


愛されることも 認められることも

特別なものが必要なわけじゃない

それは愛することも 認めることも

特別なものが必要でないように


与えることも 与えられることも

何者かになる必要はなかった

与えることも 与えられることも

何者であるか知らなくてもいい


誰もが平凡で 普通じゃない

得体が知れることはない

きっと大きな 勘違いじゃなければ

自分がわかるときもこない


なりたかった人にはなれないかもしれないが

なりたかった人って一体どんな人なの

君がどんな人かを説明するのは簡単だけど

人の数だけ違う答えが出てくるのかも


何かの型に当てはめると安心できる

その内それが本当のように思えてくる

満たされない想いを満たすのは

手に入れそこなったと思うものや

手に入れるべきだと思うものに

なるかならないか

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