第11話 そんな終わり方は
小関越え、旧東海道の間道として使われてきた。
1891年明治24年、来日していたロシアの皇太子、後の皇帝ニコライが、警護の巡査、津田三蔵に斬りつけられて負傷した事件の現場である。
かなり大きな事件であることは間違いない。
当時の日本政府は、大国ロシアと問題になることを嫌い、当然津田に死刑を言い渡すように裁判所に圧力をかけたはずだが、津田は、無期懲役にしかなっていない。
とにもかくにも、現代でも名神高速道路と国道1号線が混雑すると、車が迂回してくる迂回路にあたる。
一般車両が少なくて幸いだった。
京都府警察捜査1課本隊に滋賀県警察大津警察署の応援部隊にアメリカ陸軍特殊部隊まで加わった総勢100人以上の武装した人数が取り囲んだ。
ジュラルミンの盾も用意されている。
ジョンアレクサンダーが所有していた武器が数点、なくなっていた。
おそらくキャシーが盗み出したに違いない。
まずは、武装解除と投降を呼びかける。
そんなことで、出てくるはずはないのだが。
日本の法律上、そういう手順は仕方がない。
当然、しばらくの間、膠着する。
山奥に、キャシーとトニーを説得する声だけが響く。
それこそ、数時間も、変わることはない。
追い詰められた犯人の心境の変化を待つしかないのが、日本の警察なのだが、今回は、犯人が凶暴過ぎた。
6時間ほど膠着状態が続いた後、ドンという乾いた銃声が響いた。
プレハブ2階の窓から、トニーが攻撃してきた。
手にしているのは、レミントンM870という大型のショットガンである。
使用している銃弾は、軍用の散弾。
『なんちゅう化け物みたいな
銃を、盗んでやがる。』
ビリー審議官は、悔しがったが、盗まれてからでは、どうしようもない。
もちろん、訓練もしていないトニーが撃ったところで、そう簡単には当たらない。
しかし、軍用の散弾は、1発が数十発にバラけるためド素人でも大量殺戮が可能。
そう、あくまでも戦争用の武器なのだ。
事実、ジュラルミン製の防弾盾数十枚に弾痕ができていた。
防弾してなければ、何人かは、死んでいただろう。
米軍は、日本警察に遠慮して発砲しない。
仕方なく、本間が刑事部長に申請をした。
キャシーとトニーを銃撃するしかないと判断した。
数時間後、ようやく木田が、現場の包囲警官隊に向かって叫び声をあげた。
『犯人射殺の命令が出た。
ただし、最初の数発威嚇
する。
総員、撃ち方用意・・・。』
警官隊が構えたのは、日本製の拳銃。
リボルバータイプのニューナンブである。
威力は、ない。
数メートルの近距離で、正確に急所を撃ち抜かない限り、人が死ぬことすらない。
威嚇射撃なので、それで十分。
銃撃という行為に対しては、どこまでも慎重な日本の警察。
キャシーとトニーも、そんなことは、重々承知している。
ニューナンブの軽い射撃音が何十発と山奥に響いたが、何の変化も起こらない。
当たり前である。
たかだか、プレハブ小屋の薄い外壁すら貫通していない。
日本の警察の拳銃など、実戦では、ほとんど役に立たない。
そんな列の最前列に巨大な銃を手にして勘太郎が立った。
手にしているのは、スミス&ウェッソン、いわゆるS&W、オートマグという拳銃。
アメリカ製の拳銃である。
ビリー審議官とグリーンベレー達は驚いた。
『日本の警察官に、オートマ
グなんて銃が扱えるのか。』
オートマグは、44口径という大口径の拳銃で、散弾を撃つことができる。
『あんな化け物、俺達でさえ
なかなか・・・。』
という武器である。
京都府警察捜査1課の連中は、勘太郎の実力を知っている。
しかし、滋賀県警察の応援部隊とアメリカ陸軍のメンバーは驚くしかなかった。
誰もが、勘太郎が後ろに吹っ飛ばされて転げまわる姿を思い浮かべた。
その時、勘太郎のオートマグが火を吹いた。
肩幅より少し広く両足を広げたスタンスで、少し右足を引いて踏ん張り、両手で発砲。
プレハブ小屋の2階の窓で、トニーが血飛沫を上げて吹っ飛ばされた。
立て続けに、もう一発。
後の一発で、トニーに駆け寄ったキャシーが吹っ飛ばされていた。
『日本の警察官にも、あんな
化け物がいることがわかっ
ただけでも大きな収穫がで
きた。』
ビリー審議官が呟いたが、グリーンベレーの指揮官を勤めていた、ジョンアレクサンダーの親友、ロナルドウィリアムス大佐が。
『あれは・・・
真鍋勘太郎・・・
まさか、こんな所でお会い
できるとは・・・。』
ビリー審議官が、それに気付いて。
『ご存知の人でしたか、
大佐。』
ロナルドウィリアムス大佐、オリンピックの射撃競技の銀メダリストで、現世界ランキング2位という猛者。
その猛者が、喜んでいる。
勘太郎の、最強最大最高のライバルにして、大親友。
『あいつがいる警察署やったん
ですか。
今回の出動に武装は必要あ
りませんでしたね。』
結果を見れば、誰の目にも、明らかなのだが。
『なんや、大佐、
はなからわかっていたと言
いたそうですな。』
『真鍋勘太郎ですよ。
オリンピックゴールドメダ
リストで、射撃競技の現世
界王者の。
ここ数年、世界ランキング
1位は、ずっとあいつが独
占してます。
現在、世界1のヒットマン
ですよ。』
ビリー審議官にしてみれば、冗談ではない。
『はなから、日本の警察に圧
力をかけて、彼に射殺を頼
んでいれば、もっと短時
間で、簡単に終わっていた
ということか。
しかし、彼は、エリートコ
ースの試験の合格者で、し
かも現警察庁刑事局長の
息子という超エリート。
次に会うのは東京になるだ
ろうな。』
ビリー審議官とロナルドウィリアムス大佐の笑い声が山奥に響いた。
たかだか。人妻の嫉妬心から人間5人が死ぬという結果を招いた今回の事件、後味の悪い反省を京都府警察本部捜査1課に突き付けていた。
それから数週間後、勘太郎と萌の姿が、京都駅にあった。
祇園乙女座の高島美野里と数人のホステス、それに糸魚川が見送りに来ている。
『それじゃ、美野里ちゃん、
乙女座のこと、よろし
くね。
糸魚川さん、美野里ちゃん
のこと、よろしくお願いし
ます。』
板長の糸魚川と萌の従姉妹の美野里は、すでに結納を済ませている。
2人に、乙女座の運営を任せることにして、勘太郎と萌が、東京に引っ越すことになった。
勘太郎に、警察庁刑事企画課課長補佐という任命が出たためだ。
本間と木田と小林に佐武と黒滝が見送りに来て、小林と佐武と黒滝は、号泣している。
勘太郎は、エリートコースを歩き始めた。
したがって、もう彼等が気軽に会えることはないだろう。
勘太郎の性格からすれば、そんなことはないのだが。
そうこうするうちに、新幹線のぞみ号が、ホームに滑り込んで来て、勘太郎と萌は乗り込んだ。
ホームに見送りの万歳が響いて、列車は走り出した。
京都魔界伝説殺人事件・早良親王の怨霊 近衛源二郎 @Tanukioyaji
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