第8話 なんと、もう1人

本間と木田は、佐武がクラウンアスリートで本部に送って帰った。

勘太郎と黒滝が糸魚川に付き添って、タクシーで赤山禅院に向かった。

赤山禅院では、住職さんが、親切にも、お経を唱えてくれることになった。

盤若心経の響く境内で、3人は線香を炊き、花を手向けて、手を合わせた。

そうこうしていると、鑑識の貨物車がやってきた。

佐武が鑑識課員を2人連れて応援にきたと言う。

本職ではない糸魚川まで巻き込んで、もう一度辺りを捜索することにした。

『あれッ・・・

 なんとなく違う足跡が。』

糸魚川が新しいが、何かを探しているような動きをしている足跡を発見した。

そこで、勘太郎は黒滝と糸魚川に同行を頼んで、例のマンションへ向かった。

佐武と2人の鑑識課員は、足跡採取を優先した。

いつもの防犯カメラの映像を本日分から数日遡ってコピーしていると、

糸魚川が突然、止めるように言い出した。

『キャシーや。

 旦さん・・・

 ジョンさんの殺人事件って

 、どこまで発表してはりま

 すか。』

『いや・・・

 なんせ、米軍との兼ね合い

 がある事件やから、まだ発

 表してへん。』

『ほな、なんで・・・。

 この外人女性ですけど。

 ジョンアレクサンダーの奥

 さんですねん。

 別居してるはずですねん。』

つまり、亡くなっても、連絡は入らないはず。

勘太郎は、キャシーという外人女性が写っている前後数時間をコピーさせてもらって、佐武を待った。

鑑識作業車で、糸魚川を乙女座に送って、京都府警察本部鑑識課鑑定室に向かった。

勘太郎からの連絡を受けて、本間と木田が先着している。

佐武と黒滝が、キャシー通過前と後ろにわかれて、通る外国人の映像を拡大して写真にしていく。

その作業中、ビリー審議官が部屋に招き入れられた。

本間が、いわゆる面通しを頼み込んだのだ。

『たしかにジョンの奥さん、

 キャシーですね。』

ビリー審議官は、印刷されてくる写真を、次から次へと見ていたが。

『この車・・・。』

突然、叫び声を上げた。

『この車・・・

 運転手、わかるようにでき

 ますか。』

ビリー審議官が指差した車。

マーキュリークーガーという巨体なアメリカ車。

当然ながら左ハンドルで、カメラの方向とは、逆になる。

黒滝が、数秒前の映像を拡大写真にしてみた。

マーキュリークーガーの運転手を斜め前から見る感じになった。

フロントガラスが反射して、かなり見えにくい。

すると、黒滝が少しずつマウスを動かした。

なんと、徐々にフロントガラスの反射が消えていく。

『なんという技術力。

 日本の警察は、こんなに凄

 いんですか。』

ビリー審議官は驚愕したが、残念ながら、日本全国のどこでもできる技ではない。

マウスの微妙な操作が難しく、京都府警察の鑑識でも、佐武と黒滝2人だけが持っている技術だった。

ついつい、動かし過ぎて、人物まで消してしまうのだ。

日本最高峰の技術を持つ佐武と黒滝だからこそできた捜査手法ということになる。

『トニーだ・・・

 やっぱりか・・・。

 この車の運転手、トニー

 マクガイアと言います。

 キャシーの不倫相手です。』

なんと、ジョンアレクサンダー家の愛憎問題に発展しそうな勢いになった。

『ビリー審議官・・・

 いかがしますか。

 米軍でやらはりますか。』

本間は、外交問題になることを気にしていた。

もちろん、日米地位協定が邪魔をするという配慮。

どこかに電話していたビリー審議官が、話し始めた。

『ペンタゴンの許可を取りま

 した。

 皆さんの手でお願いします。

 被害者が軍人というだけで

 どうやら、加害者に米軍は

 関わっていないようですね。

 被害者の1人は、日本人の

 しかも警察官ですし、弔い

 のためにも、協力は惜しま

 ないようにと命令が出ま

 した。』

日米地位協定は、軍人と軍族なら適用もされるが、一般人には、適用されないという。

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