第7話 外人とばかりは・・・

勘太郎は、きめ細かい捜査を進めていた。

赤山禅院へは、何度も足を運んで。

近隣の防犯カメラの映像の確認を進めている。

とあるマンションの玄関から表通りに向いたカメラの映像に注目した。

このマンション、姉小路公康殺人事件の時の連続被害者下村杏菜の殺人事件でもお世話になっていた。

画像は小さいが、そんなものは修正できる。

福井とジョンアレクサンダーが、1人の女性を真ん中に挟んで歩いている。

勘太郎は、黒滝に画像の修正を依頼した。

女性は、東洋系の顔立ち。

『白人とばかり思ってたけど。

 こりゃ、日本人の可能性も

 出てきたな。』

小林と黒滝は、勘太郎の執念に舌を巻いた。

そして、グリーンベレーという特別鍛え上げられたジョンアレクサンダーと警察官の福井清治という屈強な男性2人を連続で殺害した犯人は、男と勝手に思いこんでいた。

『けっこう華奢な女の子や。

 しかも、美人。』

黒滝は、身元を探し始めた。

探しあぐねた黒滝は、ビリー審議官に面会を求め、見覚えの有無を問うてみた。

『ジョンが、よく祇園のクラ

 ブに連れて来ていた。

 名前までは、わからない。

 祇園のクラブ乙女座だ。』

という証言を、ビリー審議官の部下から得た。

黒滝は、それこそ必死の思いで、乙女座にたどり着いた。

真っ昼間、乙女座が営業しているはずのない時間。

『そりゃそうだよな。

 夜のお店への聞き込みは、

 夜に来ないとあかんよな。』

トボトボと歩き出した。

『あの・・・

 何かご用どすか。』

仕入れから帰った萌が声をかけた。

振り向いた黒滝は、そこに天女を見たような気がした。

引き込まれるような温かく優しい笑顔で、萌が微笑んでいた。

『私は、京都府警察鑑識課凶

 行犯捜査班の黒滝と申し

 ます。』

黒滝は、ドギマギしてしまった。

『あっ・・・

 佐武さんとこの。

 お疲れ様どす。

 家の勘太郎が、また何か仕

 出かしましたやろか。

 うちは、捜査1課の真鍋勘

 太郎の嫁で、ここの女将や

 らしてもろてます。

 真鍋萌と申します。』

そこまで挨拶した時、見覚えのあるシルバーのクラウンアスリートが現れ。

後ろ座席から、本間と木田が下りると、助手席からは佐武。

運転席からは、勘太郎が下りた。

『おぅ・・・

 黒滝やないか・・・

 どないしたんや。』

木田が声をかけた。

『あの・・・

 福井先輩とジョンさんの間

 の女性。

 身元捜査してたら、こ

 こに。

 それにしても、勘太郎

 先輩。』

黒滝、もうなにがなんだか、わけがわからなくなっている。

『黒滝、お疲れさん。

 それにしても、どういう。』

佐武は、事の経緯を聞きたかった。

『実は、女性の見覚えの有無

 をいろんな方々に訊ねて。

 で、ビリー審議官の部下

 の方々から、こちらのお店に

 ジョンさんが連れてこられ

 てたとお聞きしましたので。

 何か手がかりをお持ちやな

 いかと。

 でも、夜のお店に、真っ昼

 間って、失敗でした。』

反省しきりで、肩を落としている黒滝に。

『いや・・・

 失敗とばかりは言えへ

 んぞ。

 萌ちゃん。

 この人達、お客で見覚えあ

 るか。』

木田が、静かに慰めるように話し黒滝に写真を出させた。

『あらっ・・・

 ジョンアレクサンダーさん

 と郁美ちゃん。

 警部補さん、この2人に

 何か。』

表の騒ぎに、店で仕込み作業をしていた従業員達が顔を出した。

『警部さん・・・

 警部補さん・・・

 サブちゃんさん・・・

 毎度おおきに・・・

 おこしやす。』

板前さんが3人に、そう挨拶したから、黒滝は驚いた。

『さすがですねぇ。

 こんな高級そうなお店の常

 連さんなんですね。』

黒滝は、感心しきりで何度もうなずいた。

勘太郎が、車を駐車場に入れてきた。

萌が勘太郎に抱きついたのと同時に従業員達が。

『旦さん・・・

 お帰りなさいまし。

 なんやろう。

 旦さんと女将さんが、仲え

 ぇと、ホッとしますなぁ。』

完全にからかっている。

『おおきに板長。

 何か食わしてくれませんか。

 黒滝も、いっしょにど

 うや。』

黒滝に異存など、あるはずもない。

『今日は、いつものカレーを

 こしらえてますので、よろ

 しかったら。

 黒滝さんも、いかがど

 すか。 』

本間達の大好物である。

黒滝も、当然それにうなずいた。

『それにしても、勘太郎先輩。

 このお店。』

黒滝は、あまり実状を知らない。

『ここは、俺の嫁さんのお母

 さんがやってはった店でな。

 お母さんが亡くならはって、

 嫁さんが女将を継いだ

 店や。』

板長のカレーライスは、ベースにサフランライスを炊いて、オリーブオイルではなく、バターで芳ばしさとコクをたすというこだわりの逸品。

ただ、常連だけの裏メニューである。

『ところで旦さん・・・

 ジョンさんと郁美さんが

 何か。』

萌ではなく、板長が心配している。

聞けば、板長の糸魚川と福井清治とジョンアレクサンダーは、カリフォルニア大学バークレー校の同期生で、ドイチホールと呼ばれる学生寮の同じフロアで4年間、共に過ごした仲間という。

本間以下5人の警察官は凍りついてしまった。

『糸魚川さん・・・

 板長さん・・・

 言い難い。

 ホンマに、言い難いんやけ

 どな。

 実は、福井清治君とジョン

 アレクサンダー氏が、殺さ

 れた。

 ジョンさんの殺害現場に郁

 美さんいう女性もいてはっ

 た可能性がある。

 下手したら、郁美さんも危

 ない。』

本間の解説に、糸魚川は絶句していたが、殺害現場を知りたがった。

花と線香を供えに行きたいという。

『赤山禅院って、また早良親

 王さんの怨霊の仕業でしょ

 うか。』

糸魚川までが、勘太郎の魔界好きに感染してしまっている。

『板長・・・

 勘太郎の魔界好きが感染し

 てへんか。』

本間が冗談を言って、場を和ませた。

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