第2話 まさか怨霊

上御霊神社は、西暦784年。

長岡京造営に関わって起こった藤原種継暗殺事件に連座させられて、流刑にされ、憤死した桓武天皇の弟、早良親王が怨霊となって京都の街に災いを起こしていたのを鎮めようと神社に祀ったことに始まった。

佐武は、それが、今回の事件に関わっているのではないかと考えていた。

考えていたかった。

勘太郎の影響があると考えざるを得ない。

一方の勘太郎は、まだ、何も思い付いてはいない。

『僕は、とりあえず梨田先生

 の診断を待ちたいと思い

 ます。

 なんか、見覚えのある被害

 者さんやったけど。』

被害者の身元確認中で、死亡時刻も鑑定中。

『またまた、身元確認持って

 へんかったらしいなぁ。』

ため息混じりに木田が、ぼやいた。

『いいえ・・・

 わかっているんです。

 被害者は、福井清治。

 勤務先は、京都府警察本部

 鑑識課凶行犯捜査班です。』

佐武のこの言葉で、刑事3人は、凍りついた。

『身内か・・・

 サブちゃん、知ってる奴な

 んやな・・・。』

本間は、佐武の異変に気付いていた。

もちろん、木田と勘太郎もおかしいと思ってはいたものの、口には出せずにいたのだった。

『鑑識課凶行犯捜査班の班長

 ご存知ですよね。』

勘太郎は、テーブルに顔を伏せてしまった。

京都府警察本部鑑識課凶行犯捜査班班長は、佐武である。

『僕の右腕みたいな奴です。

 今までの、皆さんの現場に

 も何回か。』

佐武は、そこまで話すのが限界だった。

本間・木田・勘太郎の3人が出るような現場は、捜査人員も大量になるため、顔と名前が一致するほどの接点はなかった。

しかし、1度でも同じ現場に臨場したのなら、仲間である。

3人の顔には、明らかに怒りの色が浮かんでいる。

本間の公用車で、京都府警察本部捜査1課に戻った4人は、すぐさま捜査本部の立ち上げにかかった。

第1回捜査会議には、陣内鑑識課長以下鑑識課員全員と、捜査1課全員に真鍋勘一本部長まで出席した。

『みんな、わかっていると思

 うが、今回の被害者は俺達

 の大切な仲間や。

 弔い合戦や。

 なにがなんでも、犯人を上

 げて、ブタ箱にぶちこむ。』

本間以下、捜査1課の刑事達は怒りに震えている。

そんな中、京都逓信病院の監察医梨田部長が訪ねてきた。

『被害者の死亡時刻は、佐武

 君の鑑定の通りで、午後

 1時。

 それから、胃の内容物に、

 中華麺があった。

 明らかに、死亡する2時間

 くらい前にラーメン食う

 てる。

 午前11時頃や。

 そこから足取り追えへ

 んか。』

『あり得ません。

 福井がラーメンやなんて。

 あいつ菜食主義者なんです。

 かなり厳しいビーガンやっ

 たんですわ。

 ラーメンやなんて、スー

 プは、魚介類にブタとかチ

 キンとか。

 考えられません。』

陣内鑑識課長が叫び声を上げた。

鑑識課員全員の、周知の事実だった。

『豆禅かもなぁ。』

勘太郎が呟いた。

一斉に、視線が勘太郎に向けられた。

『いや・・・

 松ヶ崎に、豆禅ていう、豆

 乳と野菜のスープで、大豆

 ミートのチャーシューの、

 精進料理の料理長やった人

 がやってる精進料理のラー

 メン屋があるんです。』

宗教上で、動物質のものを食べられない人や世界各国の菜食主義者の観光客で満員になる。

『なるほど、そこならあるいは。』

陣内以下の鑑識課員全員が納得した。

同時に、刑事達が出動していく。

鑑識課員全員が、追いかける。

本間と木田と勘太郎に佐武も残ることにした。

大人数過ぎて、見落としが出る可能性があることと捜査1課と鑑識課を留守にできない。

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