京都魔界伝説殺人事件・早良親王の怨霊

近衛源二郎

第1話 御霊信仰

ある日の昼下がり、烏丸今出川の交差点に木田と勘太郎の姿があった。

お馴染みの、京都府警察本部捜査1課凶行犯係係長の木田警部補と真鍋勘太郎刑事である。

交差点を北に向かって進んでいる。

2人の目的は、お昼ご飯なのだが、違和感がある。

本間警部の姿が見えない。

『警部、居てませんでしたね。』

2人は、本間警部を探しはしたが、京都府警察本部捜査1課の部屋には、いなかった。

『そら、警部かて、

 いつもいつも儂らといっしょ

 てなわけにもいかへん。

 大人の事情もあるやろう。』

木田は、わかったようなことを言っている。

2人が目指しているのは芙蓉園という水餃子の名店である。

本間に知られたら、ただではすまない。

店の前に着いた時には、木田も勘太郎も、もはや水餃子のことで頭がいっぱいになっていた。

もちろん、躊躇なく店に入って注文したところで、本間を思い出した。

『なんとなく、嫌な予感がし

 ませんか。』

勘太郎の、こういう予感は、当たらなくても良いのに、かなりの的中率がある。

ほとんど食べ終わった頃、勘太郎は予感が外れたとほくそ笑んでいた。

ところが、木田の携帯電話が鳴った。

店の人達は、2人が京都府警察を代表するほどの敏腕刑事であることを知っているので、木田の携帯が鳴った時点から、事件と思うようになっていた。

『勘太郎・・・

 残念ながら、

 予感的中や。

 女将さん、おおきに。

 ごちそうさん。

 勘太郎、行くで。

 上御霊神社で殺人や。

 近い・・・

 走るで。』

そう言って、木田は走り出してしまった。

上御霊神社は、店の少し北、烏丸鞍馬口という地下鉄の駅があるのだが、店からは、走るのが一番速い。

勘太郎は、支払いしている。

かなり遅れて、走り出した勘太郎だが、上御霊神社に到着する頃には、並んで走っていた。

『半日や神を友にぞ時忘れ。

 か。

 被害者さん、ゆっくり休ん

 でやてか。』

勘太郎が呟いた。

松尾芭蕉の句碑の前に、横たえられた遺体。

『遅かったなぁ。

 遠くにいたんか。』

本間警部が先に着いていた。

『すんません。

 芙蓉園にいたんですけど。

 あっ・・・。』

勘太郎は、いつもこの手に引っ掛かる。

本間の誘導だ。

『お前ら、水餃子やなぁ。

 儂は、自転車婆さんの

 250円弁当やのに。』

何かの用事で出遅れた本間は、本部庁舎前に、自転車でリヤカーを引いて弁当を売りに来るお婆さんの弁当を買って食べたというのだ。

素朴で美味しいので、人気なのだが、さすがに芙蓉園の水餃子と比べると。

完全に、嫌みを言われるパターンだ。

『勘太郎のアホ・・・

 また同じ手に引っ掛かり

 やがって。

 何回目や。』

2人は、なぜか同じ方向へ逃げている。

『勘太郎・・・

 お前、何か企んどるな。』

勘太郎の企みは、木田にもバレバレだ。

『フランジパニ・・・

 なんて、僕には言えま

 せん。』

言っている。

『おっ・・・

 儂、ガトーショコラ。』

ケーキが美味しいカフェである。

走りながら、大声で話すものだから、本間と佐武が聞き耳をピーンと立てていた。

後を追いかけるほどのことはない。

行き先を言いながら逃げたアホな犯人。

『すんません警部。

 僕のバインダーを勘太郎が

 覗いているのに気付いては

 いたんですけど。

 不注意でした。』

本間と並んで、佐武が歩いている。

『いや構わんよ。

 どのみち同じ結果や。』

ドタバタトリオと佐武は、最近、よくこのカフェを利用している。

落ち着いた雰囲気と美味しいコーヒーとケーキ。

少なくとも、木田と勘太郎の頭は冴えてくる。

かなりの確率で。このカフェから事件が解決に導かれている。

『さぁサブちゃん・・・

 鑑識の結果を。』

チョコレートケーキを頬張りながら、木田が聞いたが、迫力はない。

『そら、せめてコーヒーを飲

 みながらにせんと。』

佐武が苦笑いしている。

本間以下、4人組、犯人検挙率100%で、京都府警察が誇る最強のカルテットとして有名なのだが、普段は、とてもそうとは見えない。

『殺人現場は、上御霊神社松

 尾芭蕉の句碑の前。

 死因は、鈍器のような物で

 撲殺。

 身体中、アザだらけになっ

 てましたので、めったやた

 らに殴られたと思われます。

 直接の死因は、後頭部の脳

 挫傷です。

 現場と殺害方法から、勘太

 郎のお得意分野かもしれま

 せんね。』

勘太郎は、魔界刑事と言われるほど、魔界と結びつけた捜査で事件を解決に導いてきた。

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