第52話第一印象は平和すぎ

「はあ、やっと着いたー!」


リデュレス王国の王都にたどり着いたゼルディランは、その綺麗なくせ毛をかき上げた。

王都なのだから、ある程度の人通りはある。

だが、様子はディアネス神国とは大違いだ。


「こんにちは~! 旅のお方? 可愛いお馬さんね!」


「さっきとれたラズベリーよ。おひとつどうぞ」


あまりにも平和すぎる。

彼が持った印象はそんなものだった。


「確かにここはずっといたくなるほどの場所だな。みんな優しい」


思わず笑顔になりながら彼は王城へ向かう。

少ししてから時間に少し余裕があることに気が付いたので、気の向くままに歩き出した。


「兄上たちに何かお土産でも買って帰ろうかな」


何を贈れば喜ぶだろうか。

クリスティンには可愛いお菓子を買って帰ろうと決めていたようなので、問題の兄たちへのお土産を悩みだした。


「あれ、お兄さんなにか悩み事?」


自分よりも少し年上の少女が声をかけてくる。

おそらく十七か十八ぐらいだろう。


「え、あ、そ、その……」


振り向いて返事をしようとすると、その瞬間少女の瞳がぱっと輝いた。


「まあ、こんなに小さいのに一人で? 偉いのね!」


明らかに十歳から十二歳ぐらいの男の子を見る目だ。

少々気まずそうにゼルディランは笑った。


「あの、こ、これでも十五歳で……」


「うそっ、本物だっ!」


何が本物なのだろうか。

よくわからないが彼女が幸せそうなので良しとしよう。


「というか綺麗な髪よね~、少年。金? じゃないのかな?」


「明るいハニーブラウンってよく言われます」


呼び方がお兄さんから少年に変わった。


「ふーん、ハニーブラウンか。素敵な色ね。この国の出身?」


「いえ、ディアネス神国出身です」


そう答えると、彼女は少し驚いたような顔をした。

ここから遠いからだろうか?

それは分からないが。


「それで、何を悩んでたの?」


「えっと、兄たちにお土産を買って帰りたいなって思ったんですけどなかなか思いつかなくて」


兄は四人もいるのだ。

しかも一人一人が個性的過ぎる。

とても思いつく気がしなかった。


「どんなお兄ちゃんなの? 職業とか性格とか、趣味とかさ」


「性格とか趣味……」


少し考えてから、彼は説明しだした。


「一番上の兄は王宮に勤めている官僚で、優しくて温和で趣味は竪琴かな……」


「おおー、優雅なお兄さんなんだね!王宮に勤めてるなんて頭いいんだ!」


おそらく彼女はゼルディランが貴族である可能性などちらとも考えていないので、下っ端当たりを考えているのだろう。

実際は国王の補佐官である。


「二番目の兄も王宮に勤めていて、ちょっとチャラいというかプレイボーイ?みたいな……趣味はおそらく狩り……?」


「えー、さっきのお兄さんとだいぶ違うんだね! でも君のお兄さんでしょ? 絶対美男だよ〜! おとされた女の子の気持ちがわかっちゃうかも」


確かに美男であることに変わりはないか……


「三番目の兄はえっと、近衛騎士団に勤めてて、人嫌いみたいなところがある人かな。近寄り難いし冷たいみたいな印象で。本当はちょっと不器用なところがあるんだけど家族思いで……」


「ギャップ萌え〜! 近衛騎士団なんだ、かっこいいね!」


のっと近衛騎士団の下っ端。

いえす近衛騎士団長。

人呼んで氷の王子の例のあの人である。


「最後の四番目の兄は王宮に務めてて、なんだか食えない性格というか腹黒い?とはちょっと違うかな?」


「んー、なんかよくわかんないけど王宮の官僚っぽいっ!」


彼女の偏見である。


「それだけ? ってことは五人兄弟なのかな?」


説明が続かないので、彼女はぱっと片手を前に出してそう聞いた。


「ううん」


ゼルディランが首を横に振る。


「妹がいるから六人兄弟だよ」


「妹ちゃんがいるんだ! どんな子?」


突然の妹情報に少女は興味津々だ。


「うーんと、美人で可愛くて優しくて思いやりがあって公平で完璧なんだけど僕達兄にはたまに甘えてきたり可愛いわがまま言ってきたり……」


「待って待ってもうわかったから聞いた私が悪かった」


レスト公爵家は全員がクリスティンのことを溺愛しているのだから、こうなるのは当たり前である。


――――――――――――――――――


おそらくこのお姉ちゃんはショタ好きです。知らんけど。

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