第51話きっと気に入る

「さて、義父上義母上に加護の件を説明せねばならぬな」


人払いをしてウィルフル、シェレネ、ジャン、アランドルだけになった政務室で、ウィルフルはそう言いながらシェレネの頭を撫でた。

何故か彼の膝の上に乗せられているシェレネは子供扱いされたようで気に食わなかったのか、彼の大きな手と格闘を始める。


「陛下が行かれますか? それとも使者を立てますか?」


仕事の手を休めることなくジャンが彼にそう聞いた。

ウィルフルは、少し考え込む。


「……我が妃よ。義姉上には妹がいたな?」


「ニーナのことですか?」


格闘に負けたシェレネが大人しく頭を撫でられながら答えた。

それから彼は、アランドルの方をむく。


「アランドル、お前の弟のゼルディラン・レストは婚約者や恋人はいるのか?」


「? そのような報告は聞いておりませんが……」


藪から棒に何が言いたいのか。

その場にいた全員が首を傾げたが、ウィルフルは再び考えんでしまった。


「その二人と加護の報告になんの関係が?」


「いや、少しな」


なんだか彼は楽しそうだ。


「ゼルディラン・レストに後で広間へ来るように言っておけ」


「はい」


片手でシェレネの頭を撫で続けながら、彼は羽根ペンをとった。



「陛下、お呼びでしょうか」


広間で、レスト公爵家の五男であり十五歳にして特務師団長であるゼルディラン・レストは跪いた。

珍しい明るめのハニーブラウンの髪を後ろで軽く一つにまとめている。

瞳の色もレスト公爵家には一人も似た色がいない、蜂蜜色だ。

だがその整った顔立ちは確かにかの公爵家のものだった。


「リデュレス王国にこれを届けて欲しいのだが」


ウィルフルは一通の手紙を取り出してそう言った。

一瞬、ゼルディランがぽかんとした表情をうかべる。


「私がですか?」


年より幾分も幼い声で、彼は聞き返した。

彼は知らない誰かにはクリスティンの弟だと思われるような、そんな容姿や性格、声をしているのだ。


「ああ。ちょうどそなたが適任でな」


特務師団の、しかも団長が適任とは一体どういうことなのか。


「は、はあ……」


「それと」


ふっと、ウィルフルの表情が少し穏やかになる。


「少しぐらい向こうに長くいても構わんぞ」


言っている意味がさらによくわからなくなって、ゼルディランは首を傾げた。


「お前は気にいると思うがな」



「兄上ー……」


夜遅く、仕事を終え騎士団から帰ってきたゼルディランは、兄であるクロフォードところに向かった。

出発は明日だ。

部屋で髪を拭いていたクロフォードが顔を上げる。


「どうしたゼルディラン」


「陛下から直々にリデュレス王国に手紙を届けて欲しいって言われたんだけど……なんで僕なのかな?」


彼は不思議でならないと言った様子だ。

クロフォードも理由が思いつかなかったのか、ふわふわしたゼルディランの頭に手を置く。


「何か深い理由があるのだろう」


「でも最後に『お前は気にいると思うがな』って言われたんだ。なにか関係があるのかと思って……」


ウィルフルは彼が何を気にいるだろうと思っているのか言わなかった。

彼はリデュレスに行ったこともないし、観光をしに行く訳でもない。


「……リデュレス王国を、ということではないか? 確かに優しさの王国だ。お前は気にいるだろう」


「そういうことなのかな」


あまり腑に落ちない様な表情のまま、彼は公爵家本館を後にした。


「うーん……リデュレス王国までは結構かかるし、野営しないと行けなくなるかな……宿泊所があればいいけど」


自分の私邸へと向かいながら彼は道中のことを考え始める。

ウィルフルのよく分からない言葉の数々は、一旦忘れることにしたようだ。


――――――――――――――――――


ゼルディランくんはしょたです。明るめのハニーブラウンは茶色と言うより黄色っぽい感じで考えてください。金までいかないけど茶色と言うには黄色っぽいみたいな。

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