第48話二回目の大戦の危機(((

「……で」


集まった面々を見て、ヘラが口を開いた。


「なぜアテナがいるのだ?」


「そっちこそ」


別に二人は仲が悪いわけでは無いが、良いわけでも無い。

絶妙に気まずい空気がその場を漂う。


「可愛い義妹が頼み事をしてきて、断らぬわけが無い」


「私は知恵の女神だからね。何が正しいのかぐらいわかっている」


そばにいたコレーとハデスは何を言ったところで聞かないだろう、と、世間話を始めた。

ヘラはハデスの姉ではなかったのか。

アテナはコレーの姉だったはずだが。


「も、もうやめよ姉上ヘラにアテナ。先の大戦で共闘した仲ではないか」


「共闘などしておらぬ!」


仲裁に入ったウィルフルは、ヘラに思いっきり睨まれていた。

因みに先の大戦とは、ジルダー勇者伝説のことではない。

それよりもさらに昔の昔。

今ある国々がまだなかった時代。

ディアネスとフェアリフィエと、今は全て滅んでしまった国々が存在した時代にあった戦争のことだ。

不和の女神エリスが、最も美しい女神に宛てて贈った金の林檎が引き起こした戦争。

アガメムノンやアキレウス、ヘクトルが活躍したあの戦いだ。


「だが姉上ヘラとアテナは同じ陣営にいたでは無いか」


確かに、パリスによって最も美しい女神に選ばれたのは二人ではなくアフロディーテ。

二人が同じ陣営にいたのは事実である。

しかしそういう問題ではない。


「アテナは美しさを争った相手。会って少々気まずくなるのは当たり前であろう!」


孔雀の羽でできた扇子でウィルフルを指しながら少しだけ声を荒らげるヘラ。

隣でアテナが頷いている。

だが、ウィルフルはよくわかっていないらしい。

彼はとんでもない爆弾発言をした。


「結局選ばれたのはアフロディーテで、姉上ヘラとアテナは二位と三位をつけられた訳では無いでは無いか」


「ちょっちょっちょーっ! なんてこと言うんですか陛下! こんな時に二回目の大戦を起こそうって言うんですか!? ヘラ様とアテナ様が敵陣営にいる時点で私たちの負けですよ!」


慌ててシェレネがウィルフルの口を塞ぐ。

そして自分の方に向かせると、目線が同じになるまで飛び上がって説教をし始めた。


「いいですか陛下、大体の女の人は綺麗とか可愛いとか言われたいんですよ! 確かにパリス様が最も美しい女神に選んだのはアフロディーテ様でしたけど、最終的にアフロディーテ様、ヘラ様、アテナ様に絞られたということは三人とも同じように美しい方々なんです!」


「あ、ああ……」


見たこともないほど焦っているシェレネにウィルフルは困惑しているが、元はと言えば自分が悪い。


「系統が違うんですよ、系統が! それと、パリス様は最も美しい人間をっていう条件で決めたようなものなんです! 女神様なんてみんな綺麗なんですよ! 陛下みたいな言い方をすれば誰だって怒ります!」


因みに大声ではない。

小声である。

ヘラたちには聞こえているが。


「こんなところでヘラ様とアテナ様を敵に回してどうなさる気ですか! 陛下が信用できると仰った方々じゃないですか! もうちょっと気を使ってください!」


「わ、わかった、すまない」


彼女の必死さが伝わったのか、圧に押されて彼は謝った。

彼女ははあ、とため息をつく。


「あのー、そろそろやりませんか? 加護のために集まったんでしょう?」


もう待てない、といったようにコレーがその場に割り込んだ。

コレーとハデスは忙しい。

とりあえず早く終わりにして欲しいと思ったのだろう。

四人ははっとしたように二人の方を振り返った。


「そ、そうだな。さっさと終わらせてしまおう。六人で一定の距離に並び、リデュレスを囲んでくれ」


一斉に彼らは動き出して、小さな王国をぐるりと取り囲む。


「知恵と戦の女神アテナと」


まず、アテナがそう言った。


「結婚と母性、貞節の女神ヘラと」


隣に位置するヘラがそう続ける。


「花と春の象徴、冥界の女王ペルセフォネと」


「冥界の王ハデスと」


この間のレイたちの時と違って、人数が多いので前置きが長い。


「闇の神ウィルフル・モートレックと」


「無意識の女神シェレネ・モートレックが」


やっと一周回りきって、最後にシェレネが自分の故郷をじっと、優しく見つめた。


「「この国に、加護を与える」」


それぞれ自分の手の甲に口付け、その手を中心に向かって差し出す。

そこから、きらきらと光が溢れ出した。

加護の力が、美しい結晶となって優しさの王国に降り注ぐ。

やがて加護が王国を覆った。

シェレネはその幻想的な光景を見つめながら呟いた。


「この国への悪意は、許さない」


―――――――――――――――――


作中に出てきました先の大戦とは、要するにトロイア戦争のことです。アカイア対トロイアで戦争してたあれです。イリアスとかもトロイア戦争の話ですよね。私はヘクトルとアンドロマケのカップルが好きです(どうでもいい)

トロイア戦争って書いちゃうとなんか違うなーって思ったので、名前だけ先の大戦に変更しました。内容は変わってません。因みにトロイアやらアカイアやらに相当する国の名前を何にするかは決めてないです(((

流れ的には、ずーっと昔はトロイアやアカイアに相当する国々とディアネス、フェアリフィエが存在していて、トロイア戦争に相当する「先の大戦」があって、だんだんその国々が滅んでいって、その辺から今あるリズルとかセンラとかヒューベルとかジルダーができてきた感じです。で、二千年前にフェアリフィエがディアネスと合併して、勇者伝説があって、今に至ります。複雑ですね。はい。まあそんなのはどうでもいいです(おい)アテナ様とヘラ様とアフロディーテ様の関係が分かればそれでね。うん。

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