第38話仲良し三人組

女子会。


――――――――――――――――――


人の少ない政務室で、国王ウィルフルはいつにもまして不機嫌そうだった。

最愛の妃に害をなした商人は投獄した。

しかし本当の犯人にはたどり着けなかったからだ。

ここのところずっとそうだ。


「陛下、政務室の気温が氷点下です」


「そうか」


そっけない返事をバジルに返し、震える手で書類をまとめているアランドルに追加の書類を渡す。

そんな事をするから怖がられるのだ。

きっとわかっていないのだが。


「いったい何が狙いなのでしょうね」


彼らすべての命令者たちのやりたいことに、ウィルフルたちは薄々気が付いていた。

狙われるのは大陸の大国の王族ばかり。

だが誰が、何のために。


「はあ……何が起ころうとしているんだ……」


深いため息をつき、ウィルフルは再び書類の確認をやりだした。



「シェレネ様!! よくぞご無事で……!」


アクアマリン色の大きな瞳に涙をためてシェレネを見上げているのは、森の神王妃クリスティン。

相変わらず彼女の美貌は衰えを知らず、増すばかりだ。


「ほんとです! 心配したんですよ!」


本来の輝きを放つ美しい金髪を揺らし、公爵夫人であるロゼッタは彼女に詰め寄った。


「ごめんなさい、心配してくれてありがとう」


シェレネはそんなふたりににっこりと笑いかける。

二人は本当にシェレネのことが好きだ。

いや、神全員か。

ふいに、テーブルに大きな人影が落ちた。


「我が妃よ。もう動いて大丈夫なのか?」


心配すぎて仕事を抜け出してきた、ウィルフルである。


「病気じゃないので大丈夫ですし、そもそも私動けませんから!」


いきなり現れた彼に、シェレネは少しだけ頬を赤く染め叫んだ。

抱きついてきた彼を押しのけるとぴしゃりと言い放つ。


「お仕事はどうしたんですか! ジャン様が困るので帰ってください!」


「なぜだ!!」


とは言いつつ嫌われると困るので、早々にウィルフルは退散していった。


「仲良しですねえ」


「オーロラのところもでしょ」


くすくすとロゼッタが笑う。

別に見たわけでもないが、既に天界中に広まっていることである。

それはまあ、何もない森で楽しそうにしていたら上から見ていても目立つことだろう。


「ねえロゼッタ、あなたのところはどうなの? そっちの方がききたいわ」


興味津々、と言った様子でクリスティンがロゼッタに聞いた。

ロゼッタの話は、あまり聞かない。


「えー……政略結婚の相手だし向こうも私に好かれたら困るでしょう……? まあお屋敷での生活は普通に楽しいんだけど。旦那様も地味子の私のことなんてどうでもよさそうだし」


クロフォードお兄様、可哀そうに……

心の中でそうクリスティンが呟いてもロゼッタに聞こえるはずもなく……

本当は彼女に夢中なのだが……


「ま、まあまあ、クロフォードお兄様だって少しは気にかけていらっしゃると思うわ。少しだけでいいから話す時間を増やしてみたら?」


「氷の王子って呼ばれてるぐらいよ。相手してくれるかしら。邪魔だって思われそうだわ」


ロゼッタの口からため息が漏れる。

なぜこうも自分に自信がないのだろう。

光の神の娘という時点で外見の美しさは保障されているというのに、それでも自分を地味子と言ってきかない。


「意外と喜んでくれるかもしれないわ」


意味ありげな笑顔でクリスティンはロゼッタを見つめる。

その笑顔を見て少し考え込んだロゼッタは、困ったような微笑みを返して言った。


「それはないと思うなあ」

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