第29話近衛騎士団

「ではお人形さん。あの女官の居所の目星はつきますの?」


そっと気づかれないようにシェレネの部屋を出た三人は、いまは大きな柱の陰に身を隠している。

ともかくその女官を見つけなければいけないのでフェルゼリファはそうシェレネに聞いた。


「えっと……あの……女官、に……割り当て……られた……部屋……かも……」


「行ってみましょうか。一人近衛を連れていく? 一応よ、念のため」


リェーデがそう言うので、とりあえず彼女たちは階段を下りて近衛騎士団へと向かった。


「失礼、します……」


入ってきた人物を見て近衛騎士団の団員たちは一瞬驚いたように目を見開きすぐに跪いた。


「聖妃様……何か御用でしょうか?」


団長であるクロフォードが立ち上がる。

シェレネを抱えているリェーデだが、顔が見えないように工夫しているので今のところ誰にも気づかれていないようだ。


「ドロテア、か……ビアンカを……借りても……いいかしら……」


跪いていた二人の女性騎士が立ち上がった。


「近衛騎士ドロテアと」


「ビアンカ! 何でもお申し付けくださいませ!」


明らかに対応が王族に対するものではない……

彼女は人ですらないのだが……

いや、彼女たちが慕っているレスト公爵夫人ロゼッタ・ヴィオラ・レストも人ではないが……


「……二人、で、いいわ……行きたいところ、が……あるから……ついてきて……ほしいの……」


「もちろん! どこに行くんですか? お忍びですか? 里帰りですか? この世界の果てですか!?」


「ドロテア、ビアンカ、聖妃様に対して無礼だぞ」


「ってかそれはないだろ……」


他の団員が呆れたように言った。

それを聞いて二人ははいはい、と適当に返事をすると、シェレネとともに騎士たちのいる部屋を出ていった。


「で、聖妃様ー、何するんですかー?」


「私の部屋……きて、もらえる……?」



ドロテアとビアンカは、シェレネの部屋にはいった直後信じられないというような目で固まっていた。

それもそのはず。

今の今まで女官だと思っていたシェレネを抱きかかえていた女性が、実は大国の王女だったのだから。


「え、え、リェーデ妃様ですよね? っていうかあちらにいらっしゃるのはフェルゼリファ妃様では!?」


「うそー! かの有名な王女様をこんなに間近で見ていいのー!?」


もう少し王族に対して敬意を表してはどうなのか。


「ドロテア……ビアンカ……ついさっき、の、ことなの……だけれど……お茶に、ね、毒が……盛られて、いたの……口外、厳禁ですよ……? でね、私たち……三人で……刺客を……捕らえ、たいのだけれど……ついてき、て、くれるかしら……?」


じっと、光のささない黒い目で見つめられて、二人は絶対に口外しまいと心に決め頷いた。


「行きま、しょうか……」


ということで近衛騎士二人を加えた五人は、気づかれないようにそっと女官たちの部屋のある方へと向かっていった。



「ここ……だと思、います……」


一つの木の扉の前に立った彼女たちはふう、と一息つく。


「二人は……ここ、で……待っていて……」


「はい、何かあったらすぐに知らせてくださいね! すぐに助けに行きますから!」


シェレネの真っ白い手がそっと扉に触れる。

驚いたことに鍵は開いていて、入ることができるようだ。

三人はゆっくりと部屋の中に消えていった。


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祝百話です! ありがとうございます!

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