第30話咲いた赤い花
流血表現?があります。苦手な方はご注意ください。ごめんね、生々しくなった……明日はまじおふざけ回なので嫌な人は明日まで待っててね
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「あかりはついていないの? こんな暗いところでよく生活できますわね」
「窓が一つなせいで何も見えませんわ」
あり得ないといった様子でひそひそと話す二人。
あかりがなくともロゼッタ――つまり光の使者に祈れば自分でろうそくを用意できるようになるまで光を分け与えてくれるのだからこれは意図してやっているのだろうか。
それにディアネス神国は平民の嫌なことするような国ではないし、女官たちにはろうそくは配布されているはずである。
「あら」
三人のうちの、誰の声でもない声が聞こえた。
聞き間違いではない。
三人とも聞こえているようだ。
「獲物が三人とも一緒に来てくれるなんて」
暗闇に、ぎらりと銀色の光がはしった。
咄嗟に動いたのはシェレネだった。
リェーデに向かって振り下ろされた短剣を、彼女は片手の平で受け止める。
鮮血があたりに飛び散った。
「聖妃様!」
「ここで全員亡き者にしてくれる!」
とびかかってきた女官の短剣に、素手で対抗するシェレネ。
彼女の手はどんどん切り刻まれていくが今のところほかの二人に被害はない。
「わっ、私あの二人を呼びに……って扉が!?」
フェルゼリファが扉に触れたとたん、ガチャンと音を立てて扉が閉まった。
鍵がかかったわけでもなさそうなのに、何かが引っ掛かっているのか押しても引いても扉は開いてくれない。
扉の向こう側から異変を察知した近衛騎士二人の声が聞こえてくる。
「ちょっと待って!? 鍵閉まった!?」
「どうしよう、妃殿下たちが死んじゃうよ!? 私あの三人の子供絶対可愛いだろうなって思って子供期待してたんですけど!? ここで殺されちゃったら可愛い王女様とか王子様のお顔を拝めないじゃん!?」
ほんっとうにこの二人は王族を敬う気持ちがあるのか……?
「んんー、ここは強行突破するしかないね」
ビアンカがにやりと笑う。
「いくよテディ!」
ばんっと大きな音が聞こえた。
ビアンカとドロテアが扉を蹴破った音だ。
一人で扉を蹴破ることができる近衛騎士団の男性騎士やペルシオよりは力は劣るが、二人いればたやすく扉は開く。
「聖妃様!」
そう叫んだ二人は、目の前に広がる光景を見てもう一度叫びだしそうになった。
「ビアンカ……ドロテア……」
ちょうど短剣がシェレネの手首につきたてられた時で、彼女が襲われているはずなのになぜか……
「返り……血……」
返り血に見える。
腕から滴る赤い花は確かに彼女のものなのに。
「めっ、命令されてやったのよ! 命令者が誰かなんて知らないわ! 私じゃないの! やれと言われたの! 違う、違う違う違う!」
音を立てて短剣が床に転がり落ち、女官は怯えたように後ずさった。
「私は、私は、そう、そうだわ、失敗したら、し……死ななくちゃ……」
膝から床に崩れ落ちさっきまで握っていた短剣を震える手で握り締める。
「ま、待って!! やめなさい!」
ビアンカの止める声も虚しく、女官は自らの命を絶った。
幸い、シェレネ以外の二人はどこもけがをしていない。
ただリェーデが少し被害にあっただけだ。
すぐにその部屋から出た五人は開かないように扉に外から鍵をかけシェレネの部屋に戻って行った。
「リェーデ妃様、落ちましたの?」
「ええ。もう大丈夫ですわ……」
体を水で洗い流したリェーデに、もう汚れは残っていない。
心配そうに眺めた先にいるのは"白衣の天使"に手当されているシェレネである。
「はい、終わりました。もうこれに懲りておなじことは二度としないで下さいね! 心臓が持ちません!」
珍しく彼女はコレーにお小言をくらっている。
何もなかった。
何も見ていない。
今日のことを記憶から抹消して、二人の王女は帰路についた。
もちろん記憶の女神がそのことを記憶から消したからなのだが。
「我が、妃よ?」
「へ、陛下じゃないですかあ~! おかえりなさいませ~!」
黒い笑みを浮かべ彼女に詰め寄る国王に、シェレネは無駄に明るい声でそう言った。
「ああ愛しい我が妃よ。今日はリェーデ妃とフェルゼリファ妃が来ていたそうだな?」
「そ、そうなんですよ~! 少しお話しました! たのしかったですよ~」
にこにこの笑顔で彼女は返答する。
そんな彼女をウィルフルは壁際に追い詰めていく。
「時に我が妃よ。今日の昼に何か私に無断で危険をおかしたと聞いたのだが?」
「あはは、いやあ~何のことかなあ~」
あくまで白を切るつもりらしい。
そんな自分の愛する人を眺めながら彼ははあっとため息をついた。
「まったく。我が妃は死なないというのをはき違えていないか? 痛いものは痛いのだぞ……」
「でも……」
ウィルフルの大きな手がシェレネの黄金色の髪に触れた。
「あまり私を心配させるようなことはしないでほしいな。聞いた時はどうにかなってしまいそうだった。……なんでもいい、無茶だけはしないでくれ。愛している、我が妃よ」
「ん……私も大好きです……よ……」
そっと、彼女は呟いた。
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