第27話狙われた王女たち

「聖妃様。お久しぶりですわ。お元気ですこと?」


シェレネの部屋に、一人の少女が入ってきた。

扇子で口元を覆いて、少しだけ見える形の良いくちびるが艶めかしい。

まるで十六歳には見えない美しい少女。


「お久し、ぶりです……リェーデ妃さま……」


リズル王国元王女、センラ王国の次期王妃。

リュール・イラトル王子の妃、リェーデ・イラトルである。


「よそよそしい呼び方ですこと。リェーデと呼んでくださってかまいませんわ」


「センラ王国、の……次期王妃様に……呼び捨て、なんて……できません……」


確かにリデュレス王国の王女のままならそんなことはできないが、いま彼女は神なのだから遠慮する必要はないのに。

やはりリェーデの方が年上だからだろうか。

シェレネの答えを聞いてリェーデため息をついた。


「聖妃様は誰にでも下手に出すぎですわ。ディアネス神国の王妃なのだから自信をお持ちになればよろしいのに」


それでも、シェレネは首を横に振る。


「私、は……ただ……陛下の……妃だ、と……いう……だけ、ですから……」


やれやれとリェーデはまたため息をついた。


「あら、リェーデ妃はもうお越しになっていたのね。ごきげんよう。お久しぶりですわ、お人形さん」


「お変わりないようで何よりですわ」


ふわふわの髪を揺らして閉じた扇子を口元に当てたまま、少女は言った。

フェルゼリファ・ゼファイア。

フレア王国の元王女でユリアル王国の次期王妃。


「お久し、ぶりです……」


その呼び名のとおり、まるで人形のような雰囲気でシェレネはフェルゼリファに挨拶をする。


「相変わらず国王陛下に溺愛されていますのね。同じところで寝ているだなんて初めて知りましたわ。仲がよろしいことね」


「ええ本当に」


席についたフェルゼリファ。

久々に会いたいとリェーデやフェルゼリファに言われたので、今日集まったのである。


「リェーデ妃様、お人形さん、聞いてくださいませ。この間は本当に怖かったのですわよ」


「あら、どうかされましたの?」


話し始めたフェルゼリファにリェーデはそう聞いた。

聞かれた彼女はため息をつく。


「この間刺客に狙われたのですわ。テラスから落とされかけましたのよ!」


「なんですって?」


「私……も……です……」


リェーデが驚いた表情のまま固まった。


「よ……よく生きていられましたわね……」


「セリドレックが助けてくださったの」


助かった理由を聞いて彼女は納得したように頷いた。

そしてシェレネの方を向く。


「聖妃様は?」


「私は……地面、すれすれ…まで……落ちました……ね……陛下と……補佐の、お二人が……助けて……くれました……」


「「落ちたのね……」」


二人は呆れたように口を揃えて言った。


「いくら女神だからって気をつけた方が良くってよ。怪我したらどうするの」


まったくである。


「そういえば」


リェーデが口を開いた。


義妹いもうとのフェルレリアも毒を飲まされかけてよ。わたくしが気付いたから良かったけれど」


「まあ、危ないところでしたわね。ところでリュール王子の妹君はフェルレリア王女といいますのよね?」


元の話には全く関係ないことを、フェルゼリファが口にする。


「わたくしの名前と似ているわ。どんな方?」


「確かに似ていますわね。とても愛らしく美しい王女ですのよ。なんでもあなたが美しい姫だったから恩恵を受けたかったそうですわ」


「そうなの。嬉しいわ」


なんだかリェーデとフェルゼリファがフェルレリアの話に花を咲かせているので、シェレネはいまさっき女官のひとりが運んできたお茶に口をつけた。

一口だけ飲んで、その後、


「リェーデ、妃……様、フェルゼリファ妃……様……」


彼女は二人に声をかけた。

相変わらずの無表情で。


「このお茶……のま、ないで……ください……毒……入り……です、から……」


その言葉を聞いて、二人は大きくその目を見開いた。

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