第26話平和な朝
「ん……あさ……ひ……」
目を覚ましたシェレネは寝ぼけたまま上を見上げる。
輝く朝日。
綺麗な藍色。
そこで、彼女ははっきりと目を覚ました。
「へ、陛下!?」
「ん、起きたか我が妃よ」
平然とした顔でシェレネを見下ろすウィルフル。
そんな彼に彼女は混乱する。
「あれ? わたし政務室で寝て? まだ政務室? え?」
「ああ、あれから仕事が終わらなくてな。ずっと仕事をしていた」
つまり、徹夜したということだ。
それを聞いてシェレネは慌ててウィルフルの膝から降りようとする。
「な、なんで寝てないんですか! 降りるので離してください!」
だが、彼の腕の中にちょうど良く収まっている彼女が抜け出せるはずがない。
ぎゅっと彼女を抱きしめた彼は優しく彼女の髪を撫でながら言った。
「せっかくだから今日の分も大体終わらせておいた。今日は会議はないしこのまま部屋に帰ろうか」
大量の書類をまとめて、ウィルフルは席を立つ。
いつの間にかジャンとアランドルは帰ったようだ。
「陛下、ちゃんと寝ないとだめですよ?」
困ったように自分を下から見上げるこの可愛らしい少女にウィルフルは盛大なため息をついた。
「あまり誘ってくれるな。抑えがきかなくなるだろう」
「何のですか?」
ふわふわの金の髪が風でなびいて、彼の手に絡みつく。
「そのくちびるを塞いでしまいそうになる」
咄嗟にシェレネは自分のくちびるを手で覆った。
それを見てウィルフルは笑う。
「案ずるな。今はしない」
「今はですか……」
「いずれすることになるだろう」
なんだかその笑いが気に入らなかったので彼女は彼の胸元に口付けた。
別にどこでもよかったのだがそこが一番しやすかったからだ。
「陛下、えっと、その、大好き……」
唐突なその言葉にウィルフルは大きく天井を仰ぐ。
数秒そうしたまま歩いて、やがて立ち止まった。
「そんなに可愛い事を言って、自制がきかなくなったらどうする。私も愛している、我が愛しい妃」
きらきらと輝く光の中で、二人の幸せそうな顔がより一層きらきらと光り輝いている。
そんな仕えるべき相手の様子を見てさっき仕事にやって来たジャンとアランドルは悔しそうな表情をしていた。
「ああ、俺もジュリアのところに帰りたい……!」
「おや、君がそんなことを言うなんて意外だね。とうとう私の気持ちを分かってくれたかな?」
「貴様の気持ちは知らん」
なんとも辛辣な物言いである。
だがそんなことはどうでもいいようでアランドルは後ろを振り返った。
「私もルールーに会いたいなあ。ということで帰るよ。あとはよろしく」
「おい貴様!」
彼はさっさと帰って行ってしまったのでジャンの声は廊下に虚しく響いた。
「まったく……ルールーリアに会いたいというだけで休めるのなら俺もジュリアに会いに行っている」
だが休むという言葉を知らない彼はクリスティンのことをいったん頭の片隅に移動させて政務室に向かった。
「陛下! いい加減寝てください!」
「だから、シェレネが添い寝してくれたら寝るって言ってるでしょ」
「無理です!」
突如始まった添い寝をめぐる論争。
事の始まりは先程、部屋に戻ってきたウィルフルがシェレネに添い寝してほしいと頼んだことである。
「おひとりで眠れるでしょう? 一緒に寝るなんて、その、恥ずかしいじゃないですか!」
「なんで?」
「もう!」
このように両者一歩も譲らない。
「恥じらう我が妃も可愛らしいがあまり意地を張らないでほしいな。隣で寝るだけではないか」
「知りませんー!」
だが結局ウィルフルに押し倒されてしまってそのまま一緒に寝ることになった。
そんなディアネス神国の平和な朝。
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