第22話犯人は誰なのか

「えっと……大変見苦しい様子をお見せしました」


「なにが?」


目を覚ましたシェレネはウィルフルを通じて見上げながらそう言った。

体勢は先程のまま。

何故かシェレネの煌めく金の髪はさらさらである。

起きたらどこかしら絡まっているはずなのに。


「だって、さっき私……陛下の膝の上で寝ましたよね……?」


「大丈夫だよ、僕寝てないし」


にこにこと笑いながら答えた彼に、彼女は耳を疑った。


「寝てない!? 寝てないんですか!? なんで! 私なんて放っておいて寝るなり仕事に行くなりしてくださってよかったのに!」


「どうして愛しい妃を放って寝られる? 神は死なぬから一日二日寝なかったところで問題ないだろう」


そういう問題ではない。


「なら何してたんですか? お仕事ですか? そうですよね」


「んーっとね、シェレネの髪綺麗だなって思って撫でてた」


シェレネの顔が真っ赤に染った。

呆れたような顔をして必死に誤魔化しながら彼女は問う。


「犯人、捕まったんですか?」


「あ、たぶんもうすぐ知らせが……」


そこまで彼が言ったところで、扉を叩く音が聞こえた。入ってきたのはジャンとアランドル。二人はシェレネに一礼してからウィルフルの方を向く。


「聖妃様を突き落とした者を捕らえました」


「残念ながら命令者は逃走。ララに睡眠薬を盛った者は既に殺されていた。命令者が口封じに殺したんだろう」


ウィルフルは大きなため息をついた。

やはりか、といったように。


「突き落とした者を連れてこい」


「入れ」


扉が開いて、シェレネを通じて突き落とした者が連れてこられる。


「あなたは……」


それは、シェレネにとって見慣れた女官だった。

ぼんやりと虚ろな目で彼女は床を見つめている。


「命令者は誰だ?」


冷たい声が響いた。

女官がびくりと肩を揺らす。


「命令者は誰だと聞いている。答えよ」


「わかりません……」


彼女の答えを聞いたウィルフルはさらに不機嫌そうな顔になった。

薄笑いを浮かべながら彼は彼女を見つめる。

おもむろに彼はベットから立ち上がった。

そこに座っているシェレネは瞬きすらせず人形のように彼女のことをじっと見つめている。


「分からない、か。ならば何故命令を実行した? 命令者は姿を見せなかったか?」


「ララ女官長、に、薬を盛った女官に……め、命令されて……でもその女官は別の方に命令されたと……協力者が必要だからと言われて……」


ウィルフルの冷ややかな微笑み。

ジャンの睨むような視線。

いつも温厚なアランドルの全く笑っていない顔。

そして表情の読めない生きた人形のようなシェレネ。

そんな四人に囲まれ女官はがたがたと震えている。

今にも泣き出しそうだ。


「命令者が誰であれお前が加担したのは事実であろう。よってお前を処刑する」


「ど、どうかご慈悲を……!」


彼にすがるように叫んだ女官をウィルフルは蔑むような瞳で見つめた。

闇の神は、無慈悲である。



「はあ? なんですって? 失敗した?」


「も、申し訳ありません!」


不機嫌そうな女性の声に男性が慌てて謝る。

だが彼女は彼を睨んだ。

そばにいたもう一人の男性に声をかける。


「ねえあなた、無能はいらないわ。失敗したんだもの。処刑しましょ」


「ああそうだな。君の言う通りだよ」


「どうかご慈悲を! もう失敗しません!」


彼の必死の叫びも虚しく、その声は遥か彼方へと消えていった。

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