第17話白い星

「リラ……図書館、に、行きたいから……連れていって……くれないかしら……」


読み終わった本を返しに行くために近くにいたリラを呼んだシェレネ。

わかりました、と、リラが頷く。

王立図書館は騎士団の方にある。

ここからは大分遠い。

シェレネを抱き上げたリラは彼女と楽しそうに話しながら歩き始めた。


「アテナ様たち、素敵な方ですよね」


「そうね……」


2人はそのまま1階に向かう階段を降りる。

最後から5番目ぐらいの段に差し掛かった。

その時だった。

リラの背中に大きな振動が走る。

彼女は声にならない叫び声をあげた。


「リラ……?」


リラはシェレネを抱えたまま階段から転げ落ちた。

シェレネが怪我をしないように、必死で守りながら。

そして彼女は意識を失う。

残されたシェレネは誰もいない廊下を見つめて今出せる最大の声で叫んだ。


「誰……か……」



もともと人通りの多い廊下ではないが、今日は全く人が通らない。

足の動かないシェレネはどんなに頑張って床を這って前に進もうとしても数センチしか動けない。

彼女の額に汗が滲む。


「はあ、はあ、陛下……」


「聖妃様……?」


突然真上から降ってきた声にシェレネは驚いて振り返った。

そこにいたのは相変わらず不機嫌そうな顔でこちらを見下ろすジャン。

今はバジルである。


「バジル様……」


「どのような状況で?」


はあ、とため息をつきながら彼は辺りを見回す。


「リラが……誰か、に、階段で……おされて……」


バジルは目を見開いた。


「意識が、ない?」


「部屋に……連れて、かえって……」


シェレネが彼を見上げて言う。

だがバジルは困ったように眉をひそめた。


「それでは聖妃様が一人になる。それは困るだろう。押した犯人はあなたを狙っている可能性が高い」


確かにそうだ。

だが今ここにはシェレネとリラ以外の人はバジルしかいない。

彼は少し考え込んでから言った。


「仕方ないですね」


バジルがリラを背負う。

そして彼女を落とさないように注意しながら彼はかがみこんだ。


「え?」


シェレネの体が床から離れる。


「ちゃんと捕まっててくれないと落ちても知りません」


はあ、とため息をつきながら彼は歩き出す。

片手で後ろのリラを、もう片方の手で抱きかかえているシェレネを支えながら。


「バジル様……結構、力……あったん、です、ね……」


「喧嘩でも売っておられるんですか」


だが事実である。

女性を二人も抱えたまま平然と歩いているのだから。


リラの部屋についた三人。

彼女をベットに寝かせ二人は天界を目指す。

向かう先は、医神アポロンのところである。


「アポロン様!! リラが気を失って目を覚ましません! 助けてください!」


「リラが? 今行くよ」



彼女を診察した結果は。

すぐに目を覚ますから安心していいとのことだ。

だが一つ問題があった。


「足を捻っている。数週間は安静にしていてもらわないと……」


「そう、ですか……」


沈んだ声でシェレネは答えた。


いきなり、ドアが大きな音をたてて勢いよく開いた。


「我が妃よ! 何かあったのか!?」


慌てて駆け込んできたのはウィルフル。

相当急いできたのかうっすらと汗をかいている。


「陛下……階段、で、誰かに……押されて……リラが……足を捻った、って……」


「リラ!?」


我が妃を狙ったのか……?

ウィルフルは考える。

ならば、どこの誰であろうと引きずり出し八つ裂きにしてくれよう……!

彼は怒りに震えていた。

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