第11話捏造された歴史

「ジルダー勇者伝説か……懐かしいな」


ウィルフルは言った。


「あれは大変だったなあ。内容勝手に変えられるし」


「そうなんですか?」


シェレネは全く知らないようだ。

何しろこれは2000年前の出来事である。

知らないのも無理はない。

勉強しようと思ったのもつい先程のことなのだ。


「うんそう」


彼は微笑んだ。


「創造神って、何回か会ったことがあるでしょ?」


「は、はい……」


「彼女が関係してるんだよ」


昔を懐かしむような顔で彼は語り出す。

はるか昔に起きた大きな出来事について。



2000年前。

それはまだ、光の神ライティル・モートレックが治めるフェアリフィエ王国が現存した時代。

世界の創造神は眠りに落ちた。

その直前に彼女はライティルに預けていたのだ。

彼女にとって大切なものを。

"世界王の冠"と呼ばれる美しいティアラ。

創造神の所有する冠である。

ライティルは預かったこの大切なものをガラス張りの箱ににしまって国民たちに公開していた。

厳重な警備体制の中で国民たちはこの美しいティアラを人目見ようと度々王宮に来ては眺め感嘆の声を漏らしていた。

ジルダー王国。

ディアネス王国の海を挟んだ向こう側にある王国である。

かの国の王もこのティアラを見たがっていた。

そしてそのために彼ははるばる海を越えフェアリフィエ王国を訪問してきたのだ。

その願いをライティルは快諾した。

だが、彼はわかっていなかったのである。

この国王の本性を。

国王は何としてでもこの"世界王の冠"を手に入れたかった。

自らのものとしたかったのだ。

そして彼は見事略奪に成功した。

声高らかに帰国した彼のせいで、世界は戦場となったのである。

ディアネス王国国王ウィルフル・モートレックの怒りの矛先が向かったのはは兄であるライティルだった。

世界の創造神からの預かり物を奪われるなど、と彼はライティルを責め立てる。

ライティルは言った。

僕は王様、向いてないみたいだね、と。

フェアリフィエ王国の王宮に笑い声が響く。

そして彼はウィルフルに言い放ったのだ。


「王様やめるよ。この国の領土はウィルフルにあげる。せいぜい頑張ってね」


彼は国王ではなくなった。

フェアリフィエ王国はディアネス王国の領土となった。

現在のディアネス王国旧フェアリフィエ王国領である。

問題を起こしたライティルが人間界を去ったせいで、ウィルフルがティアラを奪還しなければならなくなった。

さもなくば眠りから覚めた創造神に預かり物を返すことが出来ないのだから。

ディアネス王国はジルダー王国へと進軍した。

大戦の末ウィルフルは無事預かり物を奪還することが出来た。


そこまでは良かったのだ。


数百年の間に歴史が塗り替えられた。

ジルダー王国国王を勇者とした捏造された歴史に。

その内容はこうだ。


ジルダー王国は世界で一番美しい冠を所有していた。

心優しき国王は見てみたいと言う者たちに快く閲覧を許可していた。

だが、ディアネス王国の国王は卑劣な手を使った。

ジルダー王国からその冠を奪おうとしたのである。

国王はかの国王から冠を死守した。

命懸けで守り抜いた。

だが冠は奪い去られてしまった。

我々はこの事実を後世に伝えていかねばならない。

いつか国王の無念を晴らす立派な勇者が我々の宝を取り戻してくれるまで。


この話を信じたものは少なかった。

大陸の者たちは真実を受け継ぎ後世に伝えていた。

だがジルダー王国の人々はそうでは無い。

この捏造された歴史をほとんどの人が信じているのだ。

だから、ディアネス王国はあの国から今でも敵視されている。


話し終えたウィルフルはため息をつく。


「歴史を捏造するなど呆れて物が言えぬ。そこまでして彼らの悪事を隠蔽したいのだろうか」


「さあ……でもそうしたいんでしょうね」


勇者伝説は本当は勇者伝説では無い。

塗り替えられた歴史の代償はいつか払わなければならない。

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