第10話歴史書

「陛下陛下、歴史書貸していただけませんか?」


仕事を終え部屋に戻ってきたウィルフルにシェレネがそう言った。


「歴史書?」


あまり聞きなれない言葉に彼は聞き返す。


「勉強でもするの?」


「はい! よく考えたら私歴史あんまり知らないので……」


にこにこと微笑む彼女にウィルフルは少し笑った。

そして、彼女を抱き上げる。


「じゃあ書庫に行こうか」



王宮の中にある図書館の中の、奥の奥。

そこにある扉の鍵を空け、それを押し開ける。

そこにあったのは大昔のぼろぼろになった本や、鎖のかかった鍵付きの本たちだった。

薄暗い書庫を見上げ、シェレネは目をこらす。


「本が……いっぱい……」


その本の多さに目を見張る彼女をよそに、ウィルフルは歴史書の棚へと向かう。

その棚から、彼は何冊か本をとった。


「うーん、多分これが読みやすいと思うんだよね。挿絵とかもあるし」


試しにぱらぱらとページをめくった彼女は瞳を輝かせた。


「すごく分かりやすそうです! ありがとうございます、陛下!」


その笑顔を見て、彼の一日の疲れは一瞬で吹き飛んだ。

数秒静止してから彼は天井を仰ぐ。


「なんでそんなに可愛いの?」


「知りません可愛くありません」



就寝前。

やり残した仕事をしているウィルフルの横でシェレネは借りてきた本を読み始める。

そのたくさんの歴史書たちには、約5000年前からの出来事がいろいろ書かれている。

細く白い指でページをめくりながら本を読んでいた彼女は途中でその本を思いっきり閉じた。


「なんで……なんで……」


「ん? どうしたの?」


その音と声に振り向いたウィルフルが不思議そうに声をかける。

怒ったのか笑っているのか。

あるいは泣きそうなのか。

彼女の肩は僅かに震えていた。


「なんで1000年前の歴史書にも、3000年前の歴史書にも、5000年前の歴史書にも!」


「うん?」


「どのページを見ても陛下のことが載ってるんですか!?」


「あ、あー……」


彼女の言う通り、その歴史書に国王ウィルフルの名前が載っていないページはなかった。

めくってもめくっても「国王ウィルフル・モートレックは〜」「闇の神ウィルフル・モートレック神は〜」などというという記述がある。


「い、いやー、僕死なないからさ、何年前の歴史書に名前載ってても問題ないじゃん?」


「載りすぎですよ!」


「ほら、僕この国の王様だからさ! いっぱい書かれてるのは当然でしょ〜あはは〜」


この歴史書陛下が作ったのかな……

それとも陛下が作れって命令した人達が陛下が怖くて陛下の話いっぱい入れたのかな……

シェレネは少しだけそう思った。

だが、確かにウィルフルは歴史書に残るだけの人物である。

その冷酷さは太古から変わっていないのだ。


「それに! もし子供が出来たらさ、シェレネも言われるよ?『なんで1000年前の歴史書にも5000年前の歴史書にもお母様の名前があるの?』って!」


"子供が出来たら"という言葉に少し頬を赤く染めるシェレネ。

だが、すぐにもとの顔に戻りこう言った。


「そしたら陛下も言われますよ。『なんで1万年前の歴史書にも2万年前の歴史書にもお父様の名前があるの?』って!」


「た、確かに……」


2人は同時に吹き出した。

くすくすと笑いながらシェレネは次のページをめくる。

目に飛び込んできたのは、大きな見出しと細かい字。

今までの出来事の中で見たことの無いほど何枚ものページにわたって書かれていたものだった。


「ジルダー……勇者伝説……?」

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