第9話私はあなたのことが
「国王陛下、シェレネ姫。お呼びくださったということはお返事を頂けるんでいよね?」
にっこりと笑いながらウィリアムが言った。
ウィルフルは少し不機嫌そうな顔をする。
「私に決定権は無い。我が妃の意志を尊重する」
シェレネは相変わらず無表情だ。
光が決して宿らない真っ黒な瞳を少し伏せ、人形のように動かない。
「シェレネ姫。もう一度言わせてください」
ウィリアムが彼女にひざまずく。
そして手をとった。
「私は貴女が好きです。僕と結婚していただけませんか?」
「私は」
シェレネが口を開く。
「ごめん、なさい……私、は……あなたの……思い、に……応えられ……ない……」
ウィリアムが大きく目を見開いた。
よく見れば、ウィルフルも。
彼女は続けて言葉を紡ぎ出す。
「私、は……私、は……私は陛下を……陛下を、愛、し、て、いる、から……」
その瞬間、2人は絶句した。
信じられないというような顔をして呆然と彼女を見つめるウィルフル。
「い……今、なんと……?」
震える声で彼は彼女に問う。
彼女はそんな彼の方を真っ直ぐ見つめて言った。
「私は……陛下のことが……大、好き……で……す……」
「あーあ」
自国への帰路についたウィリアムはため息をついた。
「シェレネ姫は国王陛下が好き、か。なら仕方ないな……」
空を見上げて少し笑う。
「帰ったら兄上に八つ当たりでもするか……」
「我が妃よ」
「は……はい……」
「我が妃よ!」
「はい!」
「我が妃よ!!」
「なんなんですか!」
部屋に戻った2人。
ウィルフルがシェレネに詰め寄る。
「その……もう一度言ってくれないか……?」
「え、なにをですか……?」
私分からないな〜と言うようにシェレネは視線を逸らす。
だが彼はさらに彼女に詰め寄った。
「もう一度言ってくれ。私に愛していると」
壁までシェレネを追い詰め、彼はトンっと手をついた。
彼より何センチも小さな彼女はウィルフルの腕の中に囲われ逃げられない状態である。
「ほら、もう一度。言ってくれないのか?」
「え、えっと……」
「シェレネ。愛しい我が妃。どうかもう一度言ってくれ」
シェレネは息を吸い込んだ。
「へ、陛下のことを、愛し、て、います……」
本当に本当に小さな声だった。
呟くように言った彼女にウィルフルは笑う。
それはそれは嬉しそうに。
「私もだ。我が妃よ。ああ、もう一度言ってくれ」
「え? もうだめです!」
「もう一度くらいいいだろう?」
シェレネは俯いた。
そして真っ赤に染まった顔でウィルフルの軍服の袖をつかむ。
「もう言いませんからね……? その……愛、して、ます」
彼は大きく天井を仰いだ。
「ああ、我が妃は可愛すぎる!」
彼は微笑むと、彼女の額に口付けを落とした。
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