第7話2人ともが不安定

「……いか、陛下!」


「何だ」


大声を出したジャンにウィルフルはため息をつきながらそう答えた。


「どうかなさったんですか? 先程から手が止まっておられますが」


「いや、何でもない」


そして再び手元の書類を書きだす。

だが少ししてから彼はまたため息をついた。


「騎士団に行ってくる」


さっきウィリアムに言われた言葉。

それが彼が落ち着かない原因だった。

騎士団についた彼は大きな音を立てて近衛騎士団長がいると思しき部屋の扉を開く。


「陛下?」


そこにいた近衛騎士団員たちが一斉に整列しひざまずいた。


「クロフォード。少し付き合え」


そう言うと彼はクロフォードを連れて中庭へと向かった。


「陛下、どうかされたんですか?」


クロフォードがそう言った。

だが、返事はなかった。

その代わりに銀色の輝く光が空を切り裂く。

金属と金属の触れ合う音がした。

間一髪でウィルフルの剣を受け止めた彼は、肩で息をしながら目の前にいる使えるべき君主を見て呆然としている。


「陛……下……?」


「許せ。今日ばかりは椅子に縛り付けられ仕事をするのが落ち着かぬ」


また、剣の触れ合う音が響く。

クロフォードははあっとため息をついた。


「何があったのかはわかりませんが、気が済むまでどうぞ」


「ならばそうしよう」



ウィルフルが中庭でクロフォードと剣を交えている中、シェレネは一人部屋で考え込んでいた。


「私は確かに陛下が好きなのに……」


なのに、なのに。


「どうしてまるでそうではないような感覚になってしまうの……?」


冷静に考えてみればいきなり聖妃だと言われ知らないうちに神の花嫁にされている。

ウィリアムの言ったことは正論すぎるのだ。


「私は陛下が好きなの……この前そう分かったでしょう?」


自分に言い聞かせるように彼女は呟く。


「初めて会った王子なんかに惑わされちゃだめ……」


別に彼女は王子のことをなんとも思っていない。

だと言うのに、本当にウィルフルのことを好きなのかわからなくなるような言い方をされ彼女は混乱する。


「私が彼の前で、陛下に気持ちを伝えればいいの。そうすれば諦めるはず……でも……」


シェレネは窓から中庭を見下ろした。


「でも、私、言え、る、かな……?」


外からは何度も剣と剣がぶつかる音が聞こえてくる。


「私は、陛下のことを、あ、あ、あい、し……」


途中まで頑張ってから、彼女はクッションに倒れ込んだ。


「やっぱり……言えない………恥ずかしい……」


そのまま彼女は仰向けになる。

そして、ため息をついた。


「こんなこと言えるなんてみんなすごい……アフロディーテ様……すごい……」

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