第6話ユリアル王国の王子
「陛下、ユリアル王国の使者がお目通りをと申しておりますが」
ウィルフルの政務室に入ってきたジャンはそう言った。
「行こう」
ウィルフルが立ち上がる。
「陛下」
少し言いづらそうな顔でジャンはもう一度彼に声をかけた。
「なんだ?」
「……使者が、聖妃様にもご同席していただきたいと……」
ウィルフルは眉間にしわを寄せた。
使者が来たぐらいでは彼一人で十分である。
王家の者でもない限りシェレネとともに会うことなどなかった。
「……仕方がない。連れていこう」
はあっとため息をつきながら彼は言った。
扉のそばで控えていたエラに我が妃を連れてこいと命令する。
少ししてから、シェレネを抱えたララが彼の前に現れた。
「陛下……私、も、同席するん……ですか……?」
「ああ、そのようだ」
不機嫌そうにウィルフルは答える。
3人はそのまま使者の元へ向かった。
「国王陛下と聖妃様の御成です」
ウィルフルが着席する。
使者の前で黄金色に輝く髪がふわりと舞った。
見ると、彼は彼女に釘付けである。
「面を上げよ」
ウィルフルは言った。
しかし、顔を上げた使者に彼は大きく目を見開いた。
「っ、お前は……!」
「突然のご訪問をお許しください、ディアネス王国国王陛下」
使者がにっこりと笑う。
「ユリアル王国第2王子、ウィリアム・ゼファイアと申します」
ウィリアム・ゼファイア。
ユリアル王国第2王子。
かつてこの国にも来たことのある、フェルゼリファ王女の夫の弟。
つまり、セリドレック王子の弟である。
そんな彼がなぜ正体を偽ってまでここに来たのだろうか。
「何の用だ」
ウィルフルが彼に問う。
「それは……」
ウィリアムはまっすぐとシェレネを見つめた。
「僕は、シェレネ姫に求婚しに来ました。どうか僕と結婚してください」
「……は?」
「え……」
一瞬、2人の思考は停止した。
シェレネはウィルフルの妃。
もうそれは確定だった。
今はそうではなくとも、将来確実にそうなるのだ。
だが、この王子はそのシェレネに求婚しに来たと言う。
「……お前は、自分が何を言っているのかわかっているのか?」
「もちろんです。ですが……」
ウィリアムは少し不満そうな顔をする。
「あなたはずるくありませんか。彼女の意志を無視して勝手に自分の妃にして、彼女をこの国に縛り付けている」
「そ、それは……!」
彼はさらにウィルフルに詰め寄った。
「彼女がまだあなたの妃になると知られていなかった頃、各国の王位継承者以外の王子や貴族たちの多くは彼女を妻にしようとした。なのに、あなたはご自分が神だと言うだけで彼女を横から奪っていった」
確かに、それは正論である。
そうであるが故に、ウィルフルは言い返すことが出来なかった。
よく考えて見れば私は我が妃に好きだと言われたことはない……?
そういう考えが彼の脳内を渦巻く。
「シェレネ姫、あなたは本当に国王陛下が好きなんですか? 僕は、必ずあなたを幸せにします。少し考えてください。いいお返事を期待していますね」
ウィリアムはその場を出ていった。
「あ……あの……」
シェレネはウィルフルに声をかけた。
「部屋に帰ります……少し、1人にさせてください……」
どうして?
確かに私は陛下への思いを自覚したのは最近。
違ったの?
私は陛下を……
自分の気持ちはわかっているはずなのに、それが本当なのか自分の気持ちを疑っている。
「私は……陛下を愛しているの……?」
彼女は1人だけの部屋で、そう呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます