第4話お嫁さんを自慢したい。

突如始まった自分のお嫁さんを自慢する大会。

ヘルメスの言葉に元気よくゼウスが手を挙げた。


「はいはーい! まずは僕からー!」


「勝手にしろ」


姉上ヘラの話だから聞いてやるが、お前に興味はない」


心底どうでも良さそうな顔でハデスとウィルフルが言った。

ゼウスが叫ぶ。


「えー!? そんなのひどいよ兄上ー!」


とは言いつつも彼は笑っているのだから放っておいて大丈夫だろう。


「えっとねえ、ヘラは~」


ゼウスが話し出した。

何を言われるのか気が気でないヘラはそそくさとシェレネの背後に回る。


「可愛くてー、美人でー、威厳があってー、女王様でー、1年にいっか(ここからはここに書くことができないため気になる方はご自分でお調べください)でー、もーとにかく最高のお嫁さん!」


「ならば浮気をやめよ」


確かにそうである。

そんなに大好きなのであれば、浮気なんてしなければいいだけの話だろう。

だが彼は首を横に振った。


「わかってないなあ。可愛い子がいたら声かけちゃうでしょ?」


そういう問題なのか……

二人ほどものすごく分かるというように全力で頷いているやつらもいるが……


「はいはーい! 次は僕ー!」


ライティルが手を挙げた。

ヘルメスがどうぞー! と彼をあてる。


「エルはねー、美人だしてきぱきしてるし、僕より年下とは思えないよねー!」


エルの顔がほのかに赤く染まった。

彼はそんなエルを見て少し笑う。

だが、彼の瞳はすぐに蔑むような瞳に変わった。


「どこかの誰かさんと違って優しいし」


ライティルはちらりとウィルフルを見上げる。

ウィルフルはいつになく不機嫌そうな表情だ。

状況を察したのか、ポセイドンが話しかけた。


「あー、次は俺が言った方がいい?」


ヘルメスが頷く。


「アンピトリテはー」


彼がアンピトリテの方をむく。


「可愛いしみんなに平等に優しい。自慢の王妃だ」


「そ、そうかしら……」


ほんの少しアンピトリテが照れた。

ノリノリだった3人の自慢大会は終わった。

残るは、あの嫁大好きな2人である。

ヘルメスがハデスの方を向いた。


「次はハデス様でどうですか?」


「私か……」


何を話せば、と言ったように彼は考え込む。

やがて口を開いた。


「ペルセフォネは、花が似合う。小さな道端に生えているような花。春の女神で花の女神だ。本当に彼女に合っていると思う。私の愛しい人。くらい冥界に光をもたらす人。目も眩むような光」


ゼウスとライティルは自分のことでもないのに僅かに赤面していた。

どうしたらこんなに言葉が出てくるのだろうと。

だが、彼の話は終わらない。


「彼女がいてくれたら私は他に何も望まない。その可愛さに私はいつも言葉を失う。その美しさは私の目が耐えられぬほどのものだ。さすがは姉上デメテルの娘。器量もいいし、何より優しい。彼女の慈悲深さに私はひれ伏すだろう。慈愛に満ちた裁判に世界は涙を流すだろう」


「恥ずかしいのでもうやめてください」


コレーが顔を真っ赤に染めながら言った。

少しむっとしたような表情を見せる。


「な、なんでこんなところで口説こうとするんですか……」


だが、ウィルフルも負けているはずがない。

最後は私か、というように彼は息をついた。


「我が妃は」


彼が口を開く。


「ばらの花のごとく美しい。小さなすみれのごとく可愛らしい。どれだけ疲れていても、彼女を見ればそんな気持ち吹き飛んでしまう。甘い声と優しい表情に虜になる。照れ顔も怒った顔も、愛しくて愛しくて仕方がない」


わかる、と言ったように頷いているのはハデスだけである。


「いつも仕事ばかりで寂しい思いをさせているというのに、まともに話せないもどかしさを味わわせていると言うのに、彼女は文句一つ言わない。国民からも慕われている。良き妃の手本のようだ。時々つれないことさえも愛おしく感じる。愛しい我が妃。幸福を集めたような光。私は、彼女がいないと生きていけない」


「陛下……」


見ると、シェレネの肩は小刻みに震えていた。

透き通った白い肌は、いつになく赤く染まっている。


「恥ずかしいじゃないですか……! 本人の前でそんなに惚気ないでください……! も、もう、陛下の……ばか……」


その言葉を聞いて、一同は分かりたくもないウィルフルがシェレネにぞっこんな理由がわかってしまったような気がした。

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