第3話商業の神の商人魂

現在、この場にいるのはヘラ、ゼウス、シェレネ、ウィルフル、コレー、ハデス、エル、そしてライティル。

闇と光の間には大きな壁があるままである。

シェレネとウィルフル、ハデス、コレー。

ゼウスとライティル、そしてエル。

この間で一人どちらに行ってら良いか分からなくなっているのがヘラである。

ヘラがため息をついた。

その時だった。


「ヘラ様……?」


「アンピトリテ!」


アンピトリテ。

海の女王。

ヘラにとっては救世主のごとく光り輝いて見えたことだろう。


「良いところに来てくれた」


「は、はあ……」


歓迎されているようなのでいいのだが、アンピトリテはいささか面倒くさそうな顔をしているような。

アンピ、アンピ。

遠くの方から声がした。

息せき切って彼女のもとにかけてきたのはポセイドン。

海と地震の神である。


「アンピトリテ、先に行くなんてひどいだろ……!」


「兄上!」


「叔父様!」


「ポセイドン様~」


「ポセイドン……」


「……」


「……」


だんだんと声のテンションが下がっていく……

ハデスとウィルフルはポセイドンと大して仲がいいわけでない。

そのため特に話したことはなく、あったのは何十年、何百年ぶりだろうといった感じかもしれない。


「なんでこの場にたまってんだお前ら……?」


心底不思議そうにポセイドンは聞いた。

確かにそうである。

不仲すぎる光勢と闇勢がお互いに背を向け一堂に会しているのだから。

しかも本人たちでさえもなぜ一緒にいるのか分からないのだ。

本当に君たちは何がしたい。

ふいに今まで聞いたことのないほど胡散臭い音楽が流れてきた。

続いて満面の笑みを浮かべてケリュケイオンを振り回しながら誰かがここに入ってくる。


「どーも! 皆さんこんにちは、ヘルメスでーす!」


ヘルメス。

ゼウスの伝令神であり息子である。


「いやー、せっかく皆さんお集まりなんで、ここで僕の出番がないなんてことはないでしょう」


笑いながら彼は言った。


「ということで!」


じゃじゃーんという音とともにいきなりこの場に現れたのは……


「第1回! 自分のお嫁さん自慢しよう大会ー!」


「……は?」


「ん?」


「いえええええええええええい!」


いきなり始まったこの大会にノリノリなのはゼウスとライティルだけである。


「あっはっは、まさかやらないなんて言わないですよね? だってハデス様もウィルフル様もお嫁さんん事大好きですもんねー! 好きなだけ自分の奥さんを自慢できるんですよ? ね?」


自分のお嫁さんを好きなだけ自慢していい。

奥さん大好きな二人にとって最高の大会である。

だがここでヘルメスの手口にのって参加してしまったらなにかに負けてしまった気がする。

そう思い二人は少し悩みだす。

だが、ヘルメスは商業の神でもある。

ここで客を帰らせてしまったら彼の商人魂が許さない。

へらへらと笑い続けながら彼はシェレネとコレーに声をかけた。


「二人も自分の旦那さんに褒めてもらったり自慢してもらったりするの、嬉しくないー?」


「え、えっと……」


「う、嬉しくないわけじゃ……ないですけど……」


本当に小さな声でそう言った二人。

それをこの嫁大好き人間が聞き逃すわけがない。


「……やる」


「私もだ」


ヘルメスは二人に満面の笑みを向けた。

その微笑みは、目を付けた客を絶対に逃がさない商人の笑顔である。


「わかってくれると思いましたよー! さあ、始めましょうか!」

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