第2話兄弟

「陛下ー!」


廊下に明るい声が響いた。


「お仕事終わりましたか?」


「ああ。愛しの我が妃に早く会いたかったのでな。いつもより早く終わらせてきた」


「普段からその速度でお願いします」


呆れたように彼女は彼に言う。

彼は笑った。


「天界に行こうか。姉上が待ちくたびれている」


二人は姉であるヘラに呼び出されていた。

理由は、なんとなく会いたかったから。

なんとも適当な理由である。

彼女は彼に笑いかけた。


「そうですね」



「ヘラ様!」


姉上ヘラ


天界のヘラの宮殿。

やってきたシェレネとウィルフルをヘラが迎える。


「ウィルフル、シェレネ。よく来た」


嬉しそうに彼女は笑った。

ふと、空がかげった。

ふわっと甘い花の香りがあたりに立ち込める。


「叔母様~! お招きありがとうございます!」


姉上ヘラ


にっこりと笑った少女と彼女を愛おしそうに眺める青年(?)。

春と花の女神コレーと、冥界の王ハデスである。


「兄上!」


ウィルフルの顔がぱっと輝く。

本当に兄のことが大好きな弟である。

そんな様子を少し笑いながら眺めていたシェレネにコレーは声をかける。


「仲がいいですねえ。羨ましいです」


「そうですね」


ふふふ、と笑う二人。

そこに、予期せぬ人が現れた。


「あー、兄上! 久しぶりー!」


「……ゼウス……」


ゼウス。

全宇宙と天空を統べる全知全能の神。

彼の方を見たハデスとウィルフルは瞬時に真顔になった。

そして、はあっとため息をつく。


「え!? ちょっとひどくない!?」


ゼウスが抗議の声を上げたが、二人はまたもやため息をついた。


「ご愁傷様です」


「残念でしたね、お父様」


「かわいそうだな」


そんな事を言っているが、全くかわいそうだと思っていない顔でゼウスに言う女神3人。

ヘラに至っては彼の妻のはずなのだが……


「あれ? 聖妃ちゃんとウィルフル?」


誰かの声がした。

途端にウィルフルが不機嫌そうに眉間にしわを寄せる。


「ライティル……」


「へえ、珍しいね。こんなところで会うなんて」


「ヘラ様~」


光の神ライティルとその聖妃エル。

輝く光をまとった兄を闇の神は睨みつける。


「聖妃ちゃん、まだこんな奴と一緒にいるの? こんな奴といても楽しくないでしょ?」


「ふざけるな……ふざけるな……」


「あはは、そういう男は嫌われるよ」


嘲笑うように言い続けるライティル。

怒りに震えるウィルフル。

ぶつかり合う光と闇。


「あなた!」


エルが叫んだ。


「いい加減になさい! 大人げない。ウィルフルはあなたの弟でしょう? どうして仲良くできないの! いつもいつも会ったらそういうことを言って。言っていい場所と悪い場所も考えなさい!」


そう言われたライティルは渋々引き下がる。

だが彼は平然と言い放った。


「仕方ないなあ。でも仲良くは出来ないよ。残念ながらね」


「私もお前と仲良くしたいわけではない。私の視界に入らないようにせいぜい気を付けていろ」


彼は踵を返した。

真っ赤なマントが風でなびく。

先程のウィルフルとは全く違った様子の彼に、シェレネは驚きを隠せなかった。

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