女神の略奪

第51話計略

ハデス様とペルセフォネ様の馴れ初めの話。

諸説あります。個人的にいいなと思ったものを組み合わせました。

大事なことなのでもう一回言います。諸説あります。


―――――――――――――――――――


「遊びに行ってくるね!」


廊下に明るい声が響いた。


「えー!? また遊びに行っちゃうの!? ちゃんと帰ってくるのよ、お泊りなんて許さないんだから!」


彼女の母親らしき女性の声が聞こえる。


「はーい! でも私のいない間に冬にしちゃったらだめだからね! いってきまーす」


彼女の名前はコレー。

豊穣神デメテルの最愛の娘である。

彼女はデメテルとゼウスの娘。

花と春の象徴だ。

そしてそれと同時に、冥王ハデスの妃である。

彼女は嬉々として冥府に向かって歩き出した。

冥王と花の女神。

まるで正反対の二人がこうも仲良くなるのだなんて、誰が想像しただろうか。


花の女神であるコレーは、ニューサの野が大好きだった。

ニューサの野は色とりどりの花々が咲き乱れる美しい場所である。

彼女は毎日ニュンペー達と遊びに行っては日が暮れるまで花と戯れていた。

デメテルの娘である。

彼女は可憐な少女だった。

だが、デメテルは過保護だった。

娘を溺愛していたのである。

アポロンが求婚に来ても、ヘルメスが来ても、アレスが来ても、決して首を縦には振らなかった。

彼女はそんなことも知らずに明るい毎日を過ごしていた。


あるとき、火山が噴火を起こした。

そのせいだろうか。

大地が大きく揺れたのだ。

冥府は普段しんと静まり返っている。

そのため、この騒ぎには冥王ハデスでさえ驚いた。

これだけ大きな地震ならば、地面に裂け目ができたかもしれぬ。

彼は考えた。

そこから日の光が差し込んでしまえば、死者たちは驚きそして怖がるかもしれぬ。

そんなことはあってはならぬことだ。

彼は自らの目で確かめに向かった。


暗い岩陰に、一筋の光が差し込んでいた。

彼が案じた通りそこには裂け目ができていたのだ。

幸いそこには死者たちはいない。

安堵しながら彼は何千年かそれ以上ぶりに人間界を見上げた。

空は、雲一つない青空だった。

ヘリオスの太陽が美しく輝いていた。

彼はそこに人影を認めた。

太陽の光を浴びて、美しい金の髪は黄金色に輝いていた。

冥府とは正反対の、眩しいほどに明るい笑顔だった。

目も眩むような光に、彼は思わず額に手を当て光を遮った。

そこにいたのは、色とりどりの花を抱えた一人の少女だった。


彼女の姿をはっきりと目にとめた瞬間、彼は恋に落ちた。

そう、この少女こそ、デメテルの最愛の娘コレーである。

だが、彼はどうしたらいいか分からなかった。

弟のゼウスやポセイドンは過去にたくさんの恋人や愛人がいたが、彼は過去に一人だけしか恋人がいなかった。

彼女の父親はゼウスである。

彼はゼウスの元に向かった。

何を言われようとも冥界からほとんど出ることのなかったハデスが、たった一人の少女のためだけに天界まで赴いたのである。

これにはさすがのゼウスでも驚いた。


「……彼女は……彼女は、お前の娘か?」


「へえー、珍しいね。兄上が僕のところに来るなんて。どんな子?」


少しからかうような口調でゼウスが彼に問う。

そんなゼウスに、ハデスはため息をついてから言った。


「……花だ。ニューサの野で花を摘んでいた。ニュンペー達と一緒に。お前の娘ではないのか?」


「あー、僕の娘だね。デメテルのところのコレーだよ。デメテルには僕から言っとくから連れてって良いよ。ちょっとぐらい強引に連れてってもいいんじゃない?」


いたずら好きの幼子のように、ゼウスはにやりと笑う。


「頑張ってね、兄上のこと応援してるよ!」


彼はゼウスの言葉を聞くと、そのまま冥界に帰って行った。


幾日か経った。

ハデスは流石にもう話はつけただろうと思い、地上に向かった。

コレーは今日もまたニューサの野にやって来ていた。

姉であるアテナとアルテミスと一緒に。


「もう少し向こうにも行ってきますね!」


「気を付けてね。あんまり遠くまで行ってはいけないよ」


「はーい!」


彼女は明るく返事をすると、二人が見える範囲で花を摘み続けた。


ふと、一輪の花が彼女の目に留まった。

その花は彼女が今いる場所より少し遠くに咲いていた。

これ以上奥に行けば、確実に二人の姉からは見えなくなってしまうだろう。

だが彼女はその花が気になって気になって仕方がなかった。

少しくらいなら、と思い、彼女はゆっくりとその花に近づいていく。

その花は、水仙だった。

その美しい水仙に、コレーはそっと近づく。

彼女の白い手が水仙に触れた、その時だった。


――――――――――――――――――


この話だけで1万字いきそうだという事実に驚愕してます(笑)

少しの間これを書くつもりです!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る