第26話貴方と私の、最高の結婚式

「ふふふ、クリスティン綺麗ね」


「本当に? 嬉しいです!」


シェレネのもとで純白のドレスに着替えたクリスティン。

その姿は天使か女神か。

いや、女神なのだが。


「いいわね、綺麗な銀の髪」


ふわふわの銀の髪をとかしながら、シェレネは言った。


「いえいえ、シェレネ様の金の髪も素敵ですよ!」


クリスティンがにっこりと微笑む。

扉を叩く音が聞こえた。


「聖妃様? まだですか?」


外から相も変わらずジャンの不機嫌そうな声が聴こえる。


「もう入ってきていいわ」


扉が開いた。

クリスティンが扉の方を振り返る。


「っ……!」


振り返った彼女を見た彼は、言葉を失った。


「ジュ、リア……?」


「ジャン!」


クリスティンがジャンに抱きつく。


「ふふふ、ジャンかっこいいね」


「そちらこそ……よく似合っている……」


ジャンが微笑んだ。

滅多に笑わないジャンが笑ったことに、2人は驚く。


「……行こうか、ジュリア……いや、クリスティン」


「はい、バジル様!」


仲睦まじい2人を見ながら、シェレネはにっこりと、羨ましそうに笑った。



王宮の、ヘラ神殿。

いつになく多くの人々が集まったこの場所は、招待された貴族令嬢で溢れかえっている。

姿を消し、神殿の天井付近から眺めているのはヘラをはじめとする天界の神々。

暇だからという理由と、見たいからという理由でわざわざ人間界に降りてきたわけである。

もちろんなぜかウィルフルとシェレネもいる。


「私が作ったドレスよ。きっと似合っているに違いないわあ」


「デザインしたのは私だがな」


「何よ! 最初の素敵な私のデザインに反対したのはあんたでしょ!」


「明らかに露出しかなかったじゃない」


言い合うアフロディーテとアテナ、アルテミス。

呆れてみているヘラ。

だいたいいつもの構図である。


空気が、変わった気がした。

甘い花の香りが、当たりを包み込む。


「お姉さま方、喧嘩しないでください! 花嫁さんの登場ですよ!」


コレーが微笑んだ。


流れる銀糸の髪。

ふわふわの純白のドレス。

澄んだアクアマリンのような瞳。

薄ピンク色の艶やかな唇。

優しい優しい、天使のような笑み。

ヘラ神殿に入ってきた彼女に、貴族たちは目を奪われた。


「クリスティン、嬢?」


「まあ……いつももお美しいけれど……」


「お美しすぎて言葉も出ませんわ……」


口々に感嘆の声を漏らす。

だが。

あとから入ってきたバジルに人々は驚愕した。

いつも通り不機嫌そうなことに変わりはない。

だが、さらさらの銀の髪に藍色の瞳、正装を身にまとった彼は格段に格好よく貴族たちの目に映ったのである。


「え……? あの方、本当にバジル様……?」


「誰……?」


信じられないという表情で、人々は二人を呆然と眺めていた。


「セルヴィール公爵家次男、バジル・セルヴィール。貴方は永遠の愛をレスト公爵家令嬢クリスティン・レストに捧げると女神ヘラに誓うか?」


「……ああ……」


素っ気なく彼が答える。

神官がクリスティンのほうを向いた。


「レスト公爵家令嬢、クリスティン・レスト。貴女は永遠の愛をセルヴィール公爵家次男バジル・セルヴィールに捧げると女神ヘラに誓うか?」


「はい、もちろん!」


言い終えた二人は、相手に微笑みかけた。

そして、クリスティンはドレスなどお構いなしにジャンに抱き着いたのである。

抱き着いてきた彼女をジャンは抱き上げると、二人はくちびるとくちびるを重ね合わせた。

過去にも未来にも、この先永遠に起こりえることがないであろう状況に人々が目を見張る。

本来ならば、男性が女性の手の甲に口付けるところである。

だが二人はそんなこと気にも留めず唇に口付けたのである。

本人たちの父親は大変微妙な顔をしていた。

まあ、当たり前である。

だが、ヘラはというと満更でもなさそうな顔をしている。

それだけ、彼女は神々に愛されているのである。



両公爵家主催の夕食会は、特につつがなく終了した。

たぶん。

前公爵と公爵の間で火花が散っていたのに変わりはないからである。

そして、二人は今度は神々に囲まれて盛大にお祭り騒ぎをしていた。


「あー、せっかくだからロゼッタも一緒に祝ってあげるわ! ロゼッタがいるうちに! みんな結婚おめでとお~」


「ありがとうございます~」


「ありがとう」


「ありがとうございます!」


夜通し笑い続けた今日は、二人にとって最高の日になったのではないのだろうか。

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