第25話約束

「クリスティン、はい、これ」


シェレネはクリスティンに白い布を渡した。

広げた彼女は言葉を失った。


「綺麗…… 本当にこれを私に……?」


それが、真っ白な生地に色とりどりの花が飾られたウエディングドレスだったからである。


「あなたにならきっと似合うわ」


彼女はドレスを抱きしめると花のほころぶ様な笑顔を見せた。


「着てみてもいいですか!?」


「もちろん」


いそいそと着替えを始めた彼女を、シェレネは優しい微笑みで見つめていた。


「……わたしのドレスは……やっぱり黒か……」


黒が嫌いなわけではない。

むしろ好きである。

ただ少しだけ、少しだけ白いドレスも着てみたい。

そんなことを考えながら、彼女はため息をついた。


「シェレネ様、似合ってますかー?」


「ええ、もちろん」


純白のドレスに落ちた銀色の髪が太陽の光にあたって光り輝いている。

瞳の青が宝石のように輝いていて、彼女は正しく女神だった。


「とっても、きれいよ」


「ありがとうございます!」


クリスティンが無邪気な微笑みを見せる。

シェレネもつられてにっこりと笑った。



「我が妃よ」


寝ようと準備をしていた彼女に、ウィルフルが声をかける。


「はあい? どうかしましたか?」


きょとんとした顔で彼女は言葉を返した。


「時の流れは速いのだな。周りのものはすぐに結婚してしまう」


「そうですねえ。この前ロゼッタが結婚したばかりなのに」


ウィルフルがシェレネを抱き寄せる。


「あと2年か? 待てる気がしないな」


ウィルフルがかすかに笑った。

突然の笑みに彼女の心臓は跳ね上がる。


(不意打ちなんて、ずるい)


真っ赤になった顔をウィルフルに見られまいと彼の肩に寄りかかったシェレネだが、それはそれで恥ずかしかったようで。

いつまでたっても心臓の音は鳴りやまない。

からかうような視線を向けたウィルフルは、彼女の額に口付けを落とした。


「おやすみ。愛しの我が妃よ」


彼女はそのまま眠りに落ちた。



朝、目を覚ました彼女は昨日の夜のことを思い出し赤面してなかなか起きられなかった。


「陛下のバカ……」


誰にも聞こえないくらいの声で、彼女は呟く。


「なるほど」


突然、ここにはいないと思っていた存在から声をかけられた。


「陛下!? 会議の最中では!?」


驚いたように声を上げる。


「ちょうど終わったところでな。帰ってきたら我が妃に『陛下のバカ』と言われた」


彼がくつくつとのどを鳴らしながら笑う。


「へ、陛下が悪いんじゃないですか!」


本人が聞いているとは夢にも思っていなかったシェレネは、可愛らしく頬を膨らませそっぽを向く。


「あはは、からかってごめんって」


ふにゃりとした表情に心が落ち着いたのか、シェレネはウィルフルに向きなおった。


「おはようございます、陛下。今日はクリスティンの結婚式ですね」


「おはよう、我が妃よ。またこっそりとのぞきに行こうか。ロゼッタの時と同じように」


顔を見合わせた二人は、そのまま相手ににっこりと笑いかけた。

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