第24話噂

「バジル殿!レスト公爵家のクリスティン嬢とご結婚なさるんですか!?」


「あの噂は事実で!?」


朝早く、王宮に出勤したジャンは多くの官僚たちに囲まれていた。

その中心で彼は嫌そうに眉間にしわを寄せている。


「だからどうした。貴様らには関係ないだろう。持ち場に戻って仕事でもしたらどうだ」


相も変わらず冷たい態度である。


「やあバジル。予想通り質問攻めにあっているようだね!」


「貴様……わざわざ出仕してまで嫌味でも言いに来たのか!」


そして、相も変わらず仲が悪い(ように見せている)二人。

見慣れた風景である。


「妹との話は事実だよ。父上にでも聞いてみたらどうだい?みんな仕事頑張ってね。私は鳥に餌をやりに帰らせてもらうよ」


「帰るな!何のために出仕した!やはり貴様は気に入らん!」


実際はそうでもないのだが、なんだか本気で思っていそうである。



「おや。今日も早いですね、セルヴィール大臣」


「いつも通りだぞ、レスト大臣」


対立する両家の父親たちは、今日も今日とて静かに火花を散らしていた。

この状況で両家の関係が改善したとはだれも思わないであろう。

事実、そうなのだが。


「ああそうだ。私の愛娘をよろしくお願いしますよ」


しれっとレスト大臣がセルヴィール大臣に言った。


「こちらの息子もなかなか扱いにくくてな。頼んだぞ」


「おやおや、私に丸投げですか?」


「いつ誰がそんなことを言った」


一通りの会話を終えた後、二人はまた黙々と作業に身を投じる。

遠くからそれを眺めていた官僚たちは何とも言えない雰囲気になっていた。



「お父様がいいって、いいって!」


「よかったわね~」


「オーロラちゃんおめでと~」


「オーロラちゃん認めてもらえてよかったわね~」


「あのジャンがこんな美人な子をお嫁さんにできるなんてねえ」


「おめでとうございます!」


「結婚の女神から祝福を」


「よかったわねえ」


「へべもお祝いしたあげるう~」


「オーロラちゃん可愛いものねえ」


「よかったじゃないか」


「ニケも嬉しいです!」


「そうね、私も祝ってあげないこともないわ」


「おめでとう」


シェレネの部屋には、名だたる女神が集結していた。

上からシェレネ、ロゼッタ、エル、アフロディーテ、コレー(ペルセフォネー)、ヘラ、デメテル、へべ、ヘスティア、アテナ、ニケ、アルテミス、アンピトリテである。

多い。

なぜこんなにいる。

ちなみにエイレイテュイアは留守番である。

なぜ一人だけ。


「私はあの堅物が許可したのに驚いたわあ」


「意外とあっさりしていたものね」


あの堅物とはセルヴィール大臣のことである。

裏で散々な言われ方をされているのは彼だけではない。

レスト大臣は「あの腹黒」だの「あの毒蛇」だの、散々なあだ名がつけられている。

もちろんクリスティンには秘密である。


「あ、そうだ、わたしが新しいウエディングドレス作ってあげるわ!」


「ちょっとアフロディーテ、抜け駆けしないでよね」


「み、みんなで作りましょうよ~」


まとめ役はいつもシェレネであるため、なかなか大変である。

なぜシェレネかって?

全員と平等に仲がいいからである。

もちろんコレーとはとびぬけて仲がいいのだが。


「そうだな。それが一番だろう」


「はいはーい!へべもさんせー!」


「あれ?ヘベちゃんまた酔ってるの?」


「へべ酔ってないよお~」


そんなことを言っているが、完全に酔っ払いである。


「アテナ様あ~♡」


「ニケも仲間に入れてください~」


なぜその三人はゆりゆりしている。


「アンピちゃん大丈夫?ポセイドンちゃんと仲良くやれてる?」


「もちろん。気にかけていただいてありがとうございます」


「いいのよ、可愛い妹のことだもの」


なんだこの最強にまとまりのない集団は……

何のためにわざわざここに集まった……

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