第15話とけた誤解

静寂の中、ウィルフルのカツカツというブーツの音だけが塔の中に響き渡る。

塔の最上部は遠い。

でも、ウィルフルは一段ずつ階段を上っていた。

シェレネは自分のドレスのスカートに落ちた無数の水晶見つめている。


「シェレネ……我が妃よ……」


そっと、シェレネの後ろからウィルフルが抱きしめる。


「陛下は……陛下は、フィオーナ王女が好き、なん、ですか……?」


泣きそうになりながら、とぎれとぎれの声でシェレネが尋ねる。


「やっぱり、いつでも明るくて話しやすい人のほうが、いい、ですか……?」


うるんだ瞳でウィルフルを見上げ、震える声で話す。


「陛下は、フィオーナ王女、をお妃にしたい、ですか……?」


「そんなはずないだろう!」


ウィルフルが声を荒げる。

彼は、彼女の頬に手を当てた。


「私が、シェレネ以外を好きになるはずがない」


愛おしそうに彼女の目尻に口付けを落とす。


「じゃあ、さっきフィオーナ王女といたのは……?」


「彼女が勝手に入ってきて勝手に私にすり寄り勝手にこけかけたから咄嗟に助けてしまっただけだ。」


「ほんとに……?」


「ああ。嘘はつかない。」


安堵したように彼女はにっこりと笑った。

ウィルフルが慌てて顔をそむける。


「あー、こんなところがあったんだな。知らなかった。」


話題を変えようと、ウィルフルが言った。


「セレネ様が勝手に変えたそうですよ」


「おい!」


見つからないわけだ。

ウィルフルは思った。

まさか勝手に改築されていたなんて見当もつかなかったのだろう。

当たり前である。


「セレネ……後で覚悟しておけ……」


あー、怖い怖い。

今頃セレネ様はくしゃみをしているか背中に悪寒がはしっていることだろう。

今すぐ逃げてください。


「帰り、ましょうか。おなかもすきましたし……」


「何も食べてないのか!?」


ウィルフルが目を見開いた。


「ここにいると時間感覚が狂うというか……」


「夕食も朝食も取っていないではないか!早く帰るぞ!」


「ひえっ!?は、はい!」


いきなり抱き上げられたシェレネが、驚いて声を上げる。

そのまま二人は、月光の塔を後にした。



「さて、どうしたものか……」


すーすーと寝息を立てながら眠るシェレネを眺めながら、ウィルフルはため息をついた。


「我が妃を誤解させるような者には即刻帰ってもらいたいのだが。」


フィオーナのことだろう。

険しい顔つきでドアを眺める。


「クロフォードも妹のほうが、と言っていたことだしな。あとは……」


シェレネ豊かな金髪をそっとなでる。


「あのエルウィン・ザーンセンシアがどう出るか、だな……」


エルウィンはまだ何もしていない。

このままでは、帰す口実がない。

エルウィンが何をし始めるのか、要観察といったところだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る