第14話ウィルフルの気持ち

世界が、崩壊してしまったような気分だ。

訳を話そうと思ったのに、彼女はララになにかをつぶやきその場から去ってしまった。

フィオーナを置いて慌てて追いかけたが、もうそこには彼女の姿はない。

誤解なんだ。

フィオーナがこけたのを受け止めただけ。

私はシェレネでないとだめだ。

いつも可愛いと言っているのは本心だ。

フィオーナに何を言われたかは知らないが、ころころと変わるその表情も無表情の時の綺麗な顔も愛しくて愛しくてたまらない。

可愛らしい声も、透き通った抑揚のない声も、私はすべてが好きだ。

なのに。

きっと彼女は完全に誤解してしまっただろう。

城中を探し続ける。

だが、彼女は見つからない。

ララは言えないと言うし、誰かに連れ去られたのかと心配になる。

柄にもなく涙が出てきそうだ。

太陽神ヘリオスでさえも知らないという。

夜まで探したのに、彼女はどこにもいなかった。

一人で寝るには広すぎる寝台に腰かけ、物思いにふける。

最初から可愛いと思っていたんだ。

なんだか、彼女が懐かしい気がして。

初めて会ったのに、どこかで見たことのあるような可愛らしい顔立ちや声、性格に心ひかれた。

他の誰かにそんな感情を抱くことなどありえない。


「私が一番、彼女のことを好きだという自信があるのに……」


誤解されてしまったら、信じてくれないかもしれない。

最悪だ。

寝ないといけないのに、なかなか寝付けない。

この城のことは私が誰よりもわかっているはずなのに、彼女しか知らないどこかでもあるのだろうか。

それとも本当に、刺客に狙われてしまったのか。

こんな暗闇の中で探しても絶対に見つからないのに、探しに行きたいという気持ちが抑えられない。

私は城の設計図を取ると、くまなく探してみた。私が見落としている場所はないのか。

だが、どこもいったところがある場所ばかり。

そこは全部探したのだから、私が行っていない場所はない。

ふと、端にある月の塔に目がいった。

月の塔は、塔の中心に大きな支柱があり、そこに螺旋階段が取り付けられている。

不思議な場所だ。

その支柱の中になにかあるのではないかと予想したことがあったが、入り口がどこにもないため何もないことが判明。

たたいても空洞特有の音もしなかったし。


「ここも、だめか。」


明日もう一度探したら、どこかにいるだろうか。

一人では動けないはずだから見逃したかもしれないところをもう一度探してみるか。

そんなことを考えながら、気を紛らわすために私は仕事の資料を手に取った。



早朝、シェレネを探すために部屋の外に出た私は廊下の端から端までを探し続けていた。

寝ていないのが祟ってか、少しだけ息があがる。

休憩のために廊下の壁によりかかったその時だった。

くるりと壁が回転して、こけそうになり目をつむる。

そして目を開けると、見たこともない部屋が広がっていた。

石の床には、無数の青い水晶が転がっている。

上の上の、ずっと上でかすかな嗚咽が聞こえた。

そこにいたのは……


「シェレネ……」


「陛、下……?」


振り向いた彼女は、朝だというのに銀色の月光を浴びて触れれば壊れてしまうぐらいにはかなげな顔をしていた。


「そこに、行ってもいいか……?」


少し考え込むように彼女は視線を下げる。

やがて、口を開いた。


「……はい……」

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