第12話修羅場かもしれない。

「我が妃よ。おはよう。今日は良い天気だな。だがそれよりも我が妃が可愛らしいことに目がいってしまう。どうしたものか……」


「では私はこの澄んだきれいな青空を眺めていますのでご自由になさってください。ああ、空がきれいだな~」


「そ、それはあまりにもひどいよ!」


ディアネス国の国王とその聖妃は、いつも通りの朝を迎えていた。


「陛下がおかしいんですよ。」


「僕はおかしくないよ!」


この場合、おかしいのはウィルフルのほうである。

ウィルフルはシェレネに笑いかけると、彼女を抱き寄せた。


「あああああ、仕事行きたくない……」


「私は知りません。頑張って下さい~」


相変わらず塩対応である。

そんなシェレネを見て、ウィルフルは少し顔をしかめた。


「我が妃は私と離れるのが寂しくないのか……?」


ウィルフルのとんでもなく綺麗な顔が、いきなりシェレネの顔の前に現れる。

彼女の顔は一瞬で真っ赤に染まった。


「さっ、寂しくないなんてことは……」


「そう?よかった。」


ウィルフルが笑った。


「早くいかないとお仕事終わりませんよ。」


恥ずかしくなったのか、シェレネがウィルフルをせかす。


「ああ、そうだな。言ってくる、我が妃よ。」


ウィルフルはシェレネの頭をなでると、そのまま仕事に向かった。

残された彼女は、ベッドに突っ伏した。


「不意打ちなんてずるい……」




ウィルフルは、仕事場である王宮へと向かっていた。


「どうして仕事なんてしないといけないのかなあ……」


名残惜しそうに、時折シェレネのいる部屋のほうを振り返っている。


「あ、陛下ぁ!」


その時、客間からフィオーナの声がした。


「おはようございますぅ、今日も素敵ですねぇ!」


はあ、と彼はため息をついた。


「邪魔だ。どけ。」


フィオーナを軽くあしらい、政務室へと向かう。

フィオーナの「待って」という声だけが、廊下に響いていた。



「ララ?」


女官長のララが、シェレネの声に振り返った。


「どうかなさいましたか?」


「お昼ぐらいに政務室に行っても邪魔にならない……?」


心配そうにシェレネが問う。


「きっと大丈夫ですよ。行かれるんですか?」


「……行く……」


少し悩んでから、シェレネは告げた。

ここで行く、という選択をしていなかったなら、あんな事態は発生しなかったのかもしれない。


昼。

ウィルフルの政務室にはフィオーナが来ていた。


「これ、差し入れですぅ~一緒に食べましょ~?」


「帰れ。」


ウィルフルが拒絶したにもかかわらず、フィオーナはウィルフルに近寄った。

そして……


「きゃああ!」


机の脚につまずいたのか、フィオーナの体が大きく傾く。


「危ない!」


慌てたウィルフルが、ガシッとフィオーナを支える。

その時だった。


「陛……下……?」


その状態の二人を扉のところで、シェレネが呆然と見つめている。

二人は意図せず抱き合う形になっていたのだ。


「シェレネ!これは!」


ウィルフルが訳を言おうとしたが、時すでに遅し。

ララになにかを耳打ちすると、シェレネウィルフルを振り切って廊下の奥へと消えていった。


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