第8話自覚のない神様

フィオーナの双子の妹、フィアリエ・ザーンセンシアは、レスト公爵家の門の前でにっこりと笑った。

その笑顔は、フィオーナとそっくりである。


「ねえ、入れてくれない?公爵様にお会いしたいの。」


門を守る警備兵に可愛らしい声で話しかける。


「今日は誰のご訪問もないはずです。勝手に屋敷の中に入れることは……」


フィアリエは警備兵をきつく睨んだ。


「お黙り。ヒューベル王国第二王女の命令です。門を開けなさい!」


いくら他国の小国の姫といえども、一介の警備兵ごときが逆らえるはずがない。

何とも言えない表情で、警備兵は門を開けた。


「ふふん。きっと公爵様は私を見たら一目惚れなさるに違いないわ!」


フィアリエはクロフォードに既に妻がいることを知らないのだろう。

自信ありげに微笑んだ。

フィアリエも、姉と同じく素足をさらけ出したマイクロミニのスカートをはいている。

色仕掛けさえすれば世の男は全員落ちるとでも思っているのだろうか?

まったくの謎である。



公爵家本館についたフィアリエは、勢いよく扉を開けた。

エントランスで彫刻を磨いていた栗毛の若い侍女が驚いたように顔を上げた。

何を隠そう、この少女こそレスト公爵夫人、ロゼッタ・ヴィオラ・レストである。


「ねえあなた。そこのあなたよ。公爵様はご在宅?」


そんなことはつゆ知らず、フィアリエは高圧的に告げた。

慌てたのはロゼッタのほうである。

天下の公爵家に、何の相談もなくいきなり乗り込んできたこの少女はいったい誰なのか。

よく考えたら不法侵入ではないか。

うんうんうなりながらこの状況を理解しようと頑張っていると、さらに畳みかけられた。


「早く答えなさいよ。公爵家の侍女のくせに使えないのね。」


「は、はい!ただいま執事に確認してまいります!」


とりあえず執事のセラを呼ぶことにしたが、未だに状況が全く理解できないロゼッタは何事かと少々好奇心を抱いている。


「セラ!ステラリヨン!エントランスに知らない人がいます!」


「知らない人!?どんな方ですか!?」


「なんかすごく高貴そうな方が!」


「嫌な予感がいたしますね……」


三人はエントランスへ向かった。



「あなたがここの執事?公爵様はいらっしゃる?」


「……ヒューベル王国第二王女殿下……っ」


その言葉に、ロゼッタは目を疑った。

この意味の分からない格好をした少女が王女だというのか。

そう思っただろう。

そして、そこでハッとした。


(私って確か神じゃなかったっけ?ほんとなら神の逆鱗に触れてたかもしれないじゃん……!私が忘れてたから命拾いしたね~)


なるほどなるほど、と納得した様な口調で考え込んでいるが、そんなこと考えている時点で自分が神だということを忘れていそうである。


「早く答えなさいよ。ここの人たちはみんな無能なの?」


「旦那様はもう少しで一時ご帰宅なさいます……」


「そう。じゃあここで待たせてもらうわね。」


そう言うとフィアリエは一人の侍女に案内されサロンへと向かっていった。


「わっ、私が奥様だってバレてなかったよね?」


心配そうにロゼッタがセラに問いかける。


「はい。きっと旦那様に奥様がいらっしゃることもご存じないのでしょう……」


呆れたようにセラが言う。


「ともかく、あとで奥様として顔を合わせることになってしまいそうです。ステラリヨン、フローラと一緒に準備を。」


「もちろん。わたくしたちの奥様がどんなにおきれいな方なのか、知らしめなければなりませんわ。」


ステラリヨンとセラは闘士に燃えていた。

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