第6話自称天然?

「陛下……いい加減……降ろして、ください……」


ディアネス国王宮では、普段通りの朝を迎えていた。


「却下だな。いつもより一段と可愛らしい我が妃をはなすなど、あっていいわけがないであろう。」


「それは……毎日、おっしゃってます……」


とたとたとた。

奥の客間のほうから、誰かが走ってくる音がした。


「国王陛下あ~♡」


「フィオーナ・ザーンセンシア……?」


突然現れた王女フィオーナを見た二人は、声を失った。

おそらくその場にいた官吏全員だろう。


真っ白の素足とマイクロミニのスカート。

大きく開いた胸元。

あどけない幼子を装った笑顔。


「おはようございます国王陛下♡とーー……リデュレス王国第一王女様?」


こてんと天然アピールをしながら首を傾ける。


「ヒューベル王国第一王女。私とに何用だ?」


「私ぃ、こんな大きなお城に来たことないからぁ、迷っちゃいそぉ……国王陛下ぁ、案内してくださぁい♡」


すり寄るような猫撫で声でフィオーナが、話しかける。


「それではわたくしが……」


機嫌の悪そうなウィルフルを察してエラが手を挙げるが、フィオーナは首を横に振った。


「私は国王陛下とご一緒したいのよ。女官の方々や王女様は席を外していただけない?」


「それは無理だな。わたしはこれから政務だ。我が妃がどうしてもというのなら別だがな。」


「そんなぁ、お願いしますぅ♡ね?国王陛下ぁ?」


あまりのしつこさに、シェレネがほんの少し顔をゆがめる。

ウィルフルが気付くか気付かないかという微々たる表情の変化だったが、それを察知したウィルフルはフィオーナに背を向けた。


「仕事が滞っては困るのでな。エラ、ヒューベル王国第一王女の世話は任せた。」


最後までかたくなに名前を口に出さず、エラにそう指示する。


「あ、国王陛下!」


そんな彼女の声もむなしく、ウィルフルはシェレネを連れて政務室のドアをくぐった。



「大丈夫か?」


ウィルフルはいたわるような視線をシェレネに向けた。


「はい……」


そう口にしたシェレネだが、先程のフィオーナを思い出してか少し物憂げな表情をしている。

ヒューベル王国は小さいが、リデュレス王国と比べると3~4倍の大きさはある。

そのような国の姫なのだから、ディアネス国に降嫁し正妃となる可能性だってあるのだ。

しかも、あの様子では降嫁を望んでいることは間違いないだろう。

シェレネは憂鬱だった。



「うー、何なのよあの態度!まだ嫁いでもないくせに妃だってあそこに居座って!聖妃だか何だか知らないけど、ちょっと厚かましいんじゃないの!?」


客間に戻ったフィオーナは、声を荒げた。


「見てなさい……今に正妃になってやるんだから!」


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