第5話今はまだ何も知らない。 ロゼッタ&クロフォード編
光の神の愛娘ロゼッタは、嫁ぎ先のレスト公爵家本館で忙しそうにあちこちを動き回っていた。
「私あっちの置物磨いてくるわね!」
「奥様!」
「ちょっと庭で土いじりしてくる!」
「奥様~日焼けなさいます~!」
「お掃除お掃除~」
「奥様!?」
きっとみんな、なんて奥様なんだ、と思っていことだろう。
あるいは、「奥様ってなんだっけ?」と混乱している者もいるかもしれない。
奥様感皆無である。
「戻った……」
エントランスに、声が響いた。
見目麗しい若公爵は、相も変わらず氷のような表情である。
今日騎士団で散々いじられたということなどちらとも感じさせな……わあああああああああああ、ごめんなさいごめんなさい!!
「おかえりなさいませ、旦那さま。」
ロゼッタはにこにこと笑っているが、ゼロ円営業スマイルだろう。
そんなロゼッタを見てクロフォードがちょっと落胆したような……
「何か変わったことは?」
「特に。」
セラと事務的なやり取りをした後、クロフォードはロゼッタのほうを向きなおした。
「晩餐は?」
「まだです。旦那様と、ご一緒させていただいたほうがいいかと…」
「そうか。」
クロフォードは努めて冷静を装っているが、満更でもなさそうな面立ちである。
ロゼッタはぺこりと一礼すると、準備のためだろうか。パタパタとサロンへ向かった。
一方、エントランスに残されたクロフォードははあっとため息をついた。
「また騎士団の皆さまですか?」
苦笑いをしながら、セラがクロフォードに話しかける。
「あいつらに情はないのか……」
疲れ切った顔をして、クロフォードは答えた。
「そのようなお顔をされていては氷の王子の名に傷がつきますよ。」
面白半分に、セラが言った。
「かまうものか。」
そっけなく、クロフォードが返す。
実のところ、最近の使用人たちの楽しみはクロフォードの表情の変化を遠巻きに眺めることだ。
なのでセラの発言はそう言った裏があるわけである。
「晩餐の用意が整ったそうですよ~」
明るく愛らしい声が、エントランスに響く。
先ほどの疲れた表情から一転し、クロフォードの蒼白だった顔に一気に色が戻ってくる。
近くを歩いていた使用人二人は、いいネタだといわんばかりにニヤついた顔で自分たちの主人を眺めていた。
「えっと、今日は庭でお茶を……」
先ほどとは打って変わって、ロゼッタは冷や汗をかきながら必死に弁明していた。
「違うな。嘘はつかなくていい。何をしていても咎めない。」
クロフォードの勘が鋭すぎるのだ。
ロゼッタはこう思っていた。
まるで目の前に叔父であるウィルフルがいるようだなと……
「うぅっ、庭で土いじりとかしてました……」
渋っていたロゼッタだったが、とうとうクロフォードに白旗を上げた。
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