第17話 赤い糸の先の次期王妃 後編
「わあ、こんなにここに人が集まったのを見たのは初めてだわ~! ちゅうもーく! 王妃だよ~! レイのお嫁さんを決めるためだけに来てくれてありがと~! みんなかわいくて困っちゃう!」
ざわついていた会場がさらにざわつく。
当たり前だろう。
王宮へのイメージがガラッと変わった可能性が……
しかも彼女自身ここで国王に見初められているはずなのでこの場にたくさんの人が集まっているのを見るのは初めてではない。
「我が妃よ。
「はい……まあ……」
「ほらほら、あのことかいいんじゃない?」
「いや、あの娘の方がいいと思うぞ」
平民とか貴族とか関係なく、みんなで楽しそうに話している人々を見て王妃と国王が言い合っている。
「あら、あの子はどお?」
「母上……父上……自分で決めますから……」
呆れ顔で彼女の手を降ろしながら、レイは言った。
ふと、顔を上げる。
その瞬間彼は目を見開いた。
彼の視線の先にいたのは妹と思しき人物と一緒にいる少女。
緩めに結った金髪はシャンデリアの光を受けてより一層輝いている。
優しい笑顔。
レイは、彼女から目が離せなくなっていた。
それぐらい彼の目には彼女が特別に見えたのだろう。
「っ母上……どいてください……」
「あらあらあら?」
王妃の手を押しのけた彼は、そのまま一直線に少女のもとへ歩いて行った。
「あの……」
「王子様? どうかされましたか?」
にっこりと、花の綻ぶような笑顔が彼のほうに向けられた。
「差し支えなければお名前を聞いても?」
「私の? えっと……私はミーナ。こっちは妹のニーナです」
いきなり名前を聞かれて少しだけ困惑したような表情を見せたミーナだったが、すぐに笑顔に戻った。
そんな彼女を見てレイは彼女の手を取り跪く。
「ミーナさん、僕と踊ってくれませんか?」
「私なんかが?」
「あなた以外は目に映らない」
今出会ったばかりなのにそうとは思えないほど仲良さげに二人は広間の真ん中まで歩いて行った。
まあいい雰囲気になっている今日の主役はおいておいて。
何の関係もない彼の妹夫婦は、相変わらずである。
「我が妃よ。その可愛らしい顔を世間に晒したくは無いのだが致し方ない。私と踊ってくれまいか?」
「陛下……私、は……踊れないです……」
何がどうなってそうなっているのかは知らないがシェレネは基本踊れないような。
「いいでは無いか。あのシャンデリアの所まで高かったら足は動かなくとも踊れるであろう?」
「むちゃくちゃですね……」
「ほら、行くぞ」
ウィルフルの大きな手の上に、白い小さい手がそっと触れた。
真っ黒のドレスが、浮き上がったせいか少しだけ揺れる。
場内がざわついた。
「陛下……みんな、が……見てます……」
「いいだろう。気にするな」
音楽に合わせてくるくると回る二人に周囲は唖然としている。
「良く、ないです……今日、の……主役は……お兄様……です……」
「こちらに注目する者が悪い」
例え誰であろうと、空中で踊っていればそちらに注目するだろう。
きっと、この場にいる全員が思っている。
楽しそうな顔でこの場を後にしていく人々。
妹のニーナと帰ろうとしていたミーナを、誰かが引き留めた。
彼女が振り返る。
「ミーナさん」
「はい? 何でしょう?」
声をかけたレイは、彼女の手をぎゅっと握った。
ほんのりと彼女の頬が赤くなる。
「あなたしか目に映らなくなってしまったこの僕と、どうか婚約していただけませんか? その笑顔の虜になってしまったから」
「えっと、私なんかでよければ」
嬉しそうに笑った彼は、そのまま彼女の手の甲に口付けを落とした。
「まあまあ、よかったわね! よろしくねミーナちゃん!」
「ああ」
「兄を、よろしく……お願い……します……
「ふむ。私からも言っておこう」
ウィルフルは全く関係がないのだが。
特に気にすることなく王妃たちに笑いかけたミーナは少し照れながら言った。
「なんか恥ずかしいですね。ディアネス神国のような大国の国王陛下と聖妃様に、あ、神様に? おねえさまと呼ばれる日が来るなんて……」
まったく予想していなかったと思うから、当たり前だろう。
むしろ畏怖しないほうがすごい。
「
今日はレイとミーナの婚約式。
太陽の光を反射して、彼女の金髪はきらきらと光り輝いている。
彼女は大人っぽい雰囲気なので、そういうドレスがよく似合っていた。
「綺麗ですね、ミーナさん」
「恥ずかしいです。ふふっ。あの、さん付けなくてもいいですよ?」
それを聞いて、レイは遠慮がちに言った。
「そうですか? じゃあ、えっと……ミーナ……?」
「これからよろしくお願いしますね、レイ……やっぱり呼び捨ては恥ずかしい……」
初々しくて何よりである。
「そういえば、我が妃よ。私たちは婚約式挙げていないな」
唐突にウィルフルがそんなことを言い出した。
「当たり、前です……私、は……陛下の……婚約者じゃ、無い、ですから……」
二人は婚約なんてしていない。
ただ、将来結婚することが決まっているだけである。
彼ははあっとため息をついた。
「仕方ないな。結婚式に期待しよう」
「期待……されても……困り、ます……」
相変わらず表情一つ変えないままシェレネは答える。
「その時は我らも呼び捨てか?」
「恥ずかしい……ので……遠慮、させて……いただきます……」
彼女は首を横に振った。
むっとしたように、ウィルフルはシェレネに視線を合わせじっと彼女の光のない目を見つめる。
「真似して。ウィ」
「ウィ……」
「ル」
「ル……」
「フ」
「フ……」
「ル」
「ル……」
「繋げて?」
「陛下……」
「………………」
彼女に呼び捨てができるようになる日は果たしてやってくるのだろうか……
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