第16話 赤い糸の先の次期王妃 前編
「ねえレイ、お母様はね、そろそろお妃様を貰ってもいいと思うのよ」
自分の頬に手をあて王妃はレイから少し視線をずらした先の床を眺めながら言った。
にこにこと笑いながら彼は王妃から視線をそらしていく。
「えーっと? どういう事ですか、母上?」
「要するに私はね、早く嫁の顔が見たいのよ!」
「………………」
立ち上がって叫んだ王妃に困惑しているレイだが、そんなことは関係ない。
「あなた! ほらあの、例のやつ!」
「いいな。そろそろ私も嫁の顔が見たいと思っていたし」
「僕の意見は無視なんですかー!」
リデュレス王国は平和である。
「陛下、ちょっとリデュレス王国行ってきますね」
「なんで?」
女官から受け取った手紙を見て、シェレネはウィルフルにそう言う。
なにかあるのか。
何も知らないウィルフルはシェレネに問いかけた。
「うちの国では、国王の配偶者を決めるときは自国内の方にしようってなってるんですよね。昔からそうらしくて、夜会に国内の未婚女性を全員集めてみんなでわいわい決めてるらしいんですけど、お兄様もお妃様をもらうから一緒にどうって」
リデュレス王国は優しさの国である。
神々の祝福を受けた国。
だからこの国で生まれた人に悪い人はいない。
となるとなんだか他国のお妃様をもらうとまずいのではないかということになったので、王位継承者は国内からお妃を選ぼうということに決まったわけである。
「ふーん、そうなんだ。僕もいていいかな?」
「いいんじゃないですか? 私が陛下に嫁ぐのはもう決まってることですし。というか私いつも皆さんから聖妃様聖妃様って呼ばれてますけどまだ王女でしたね」
忘れてはいけない。
彼女はまだリデュレス王国の王女である。
「よし、じゃあ準備しに行こう。ララ? 準備してくれ」
「陛下! この前やめてくださいって言ったじゃないですか!」
「ごめん! ごめんってば! 反省してます! ごめんなさい!」
なぜいきなりこんな状況になっているのか。
それは、ウィルフルがこの前やめろと言われていた"馬車で空を爆走する"というあ荒業をまたやったからである。
今回は途中でシェレネが止めることに成功した。
「もう、言ったのにやるなんて最低です!」
「最低!? お願いだから機嫌をなおして! 嫌いだなんて言わないで!」
背を向けてしまった彼女に慌てたウィルフルはその綺麗すぎる顔で彼女を見つめた。
しばらく聞こえないふりをしていたシェレネだがその視線に勝てる訳もなく。
「…………仕方ないですね」
ぼそっとそう呟いて、彼のほうに向きなおった。
「許してくれる?」
「もう、早く行きますよ!」
ほんのり頬を赤く染めながら彼女は窓の外を見た。
「はーい」
相変わらず仲のいい人たちである。
「おひさし、ぶりです……お母様も……お父様、も……お元気、そうで…………」
微かに宙に浮いた状態でそっと頭を下げたシェレネ。
「シェレネ! よく来たわね~! ウィルフル様もいらっしゃるのね。レイ、シェレネが来たわよ!」
嬉しそうに娘を眺めながら王妃はレイを呼んだ。
「シェレネが?」
どこからともなく声が聞こえて、やがて金髪に優しい笑顔を浮かべた青年が現れた。
「ひさしぶり。元気そうでよかった」
「
シェレネの家族なので、心なしか視線が柔らかい。
とはいえ元が怖いのであくまで"心なしか柔らかい"だけなのだが。
「まあまあ、母上ですって! 神様に言われると何だか偉くなった感じだわ!」
にこにこと嬉しそうな顔で王妃はレイに言う。
「母上は王妃なんだから偉いと思うよ……」
呆れたように彼は返した。
まあ確かに、王妃は偉い。
「もうすぐ、お兄様、も……ご結婚……お姉様が出来ます……まあ、お姉様、いっぱい……いるんですけど……」
それはヘスティアとデメテルと、ヘラのことだろう。
だが神ということもあってあまり実感がわかないのかもしれない。
「シェレネは、僕にお嫁さん出来るの嬉しい?」
「うれ、しいです……」
「そう、よかった」
にっこりと、彼はシェレネに微笑みかける。
彼女の怖いほどの無表情が若干優しくなった。
ような気がした。
「うふふふふ〜お嫁さんの次は孫ね〜! 楽しみだわ〜」
「母上……」
「お母、様……」
そういった王妃にレイは再び呆れたような表情になった。
「孫もいいな」
「父上!?」
本当にマイペースでたぶんまともなのはレイだけだが、これはもうまだ見ぬ次期王妃に期待しよう。
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