第12話 夏のある日の神々の宴会 前編

「シェレネ〜、今度天界でディオの宴会があるらしいよ〜」


仕事が終わりシェレネの元へやって来たウィルフルは開口一番にそう告げた。


「ディオ?酒神のディオニュソス様の事ですか?」


「うんそう。でね、ハデス兄上と、コレーちゃんも来るんだって!」


嬉しそうに顔を輝かせながら、彼は言う。


「いつもお仕事忙しいのにお越しなんですか? でも陛下、よかったじゃないですか。陛下、ハデス様のことお好きでしょう?」


「うん!」


ディオニュソスは酒神である。

彼はゼウスと人の子セメレーの息子だ。

浮気相手の子である。

良く思うはずがない。

そのため、女神ヘラはあまり関わらぬように、顔を見ないようにしていた。

だが今回の宴には大切な義妹が来るという。

彼女は渋々出席することにした。

シェレネはヘラのお気に入りである。


ハデスは冥界の王である。

彼とウィルフルはとても仲がいい。

彼はまじめな性格である。

そして天界きっての常識人でもあった。

冥界に休日はない。

だがコレーが嫁いできてからはたまに天界にも顔を見せるようになった。


コレーこと女神ペルセフォネは豊穣神デメテルとゼウスの娘である。

彼女は花と春の象徴であり、冥界の女王でもあった。

彼女は天界ではコレーと呼ばれている。

彼女はゼウスの娘ではあるが、特にヘラから嫌われたりはしていない。

彼女を溺愛するデメテルやハデスを怒らせれば世界は破滅するだろう。

とりわけ仲が良いわけではないが、会って気まずくなるような関係でもなかった。


「いつですか?」


彼女はウィルフルに笑いかけながら聞いた。


「明日だよ」


「え?」


「明日」


だが、この言葉を聞いた瞬間真顔になった。


「…………そういうのははやく言ってください」


「あ……はい……」


彼女にも予定や都合はあるので次からは早めに言ってほしいところである。



「…………」


「…………」


「…………聖妃様、本日のお日柄もよく…………お元気そうで何より…………」


「…………ジャン様もお元気そうで何よりです…………」


「陛下! なんで聖妃様と行かねばならないのですか!?」

「陛下! なんでジャン様と一緒なんですか!?」


二人は同時に叫んだ。


「まあまあ落ち着いて、ジャンにシェレネ様!」


ルールーリアが仲裁に入る。


「なんで一緒だとだめなんだ?」


心底不思議そうにウィルフルは答えた。

どうせ目的地は一緒である。

そう考えたウィルフルは森の神王ジャンとその義妹ルールーリアと共に天界に行くことにした。

だがシェレネとジャンは知らなかったのである。

二人はなぜか知らないがたまに謎の睨み合い?をしていた。

ウィルフルの政務室で。


「着いたら別になるのなら、まあ、仕方ないとするか…………」


はあっとため息をつきながらジャンは言う。


「そんこと言わないでください! 私のメンタルが崩壊します!」


政務室でもウィルフルがいなければ終始こんな感じである。

なぜこうなるのか……



天界についた4人。

明るい声でディオニュソスが迎える。


「ウィルフル様にシェレネちゃん! 来てくれてありがと!」


つくづくハイテンションである。


「久しいなウィルフル。それにシェレネ姫も」


シェレネとウィルフルに誰かが声をかけた。


「兄上。元気そうでなによりだ」


「シェレネ様! 元気そうでなによりです! 何かあったら是非来てくださいね」


冥界の王と女王、ハデスとペルセフォネである。

今は夏なので彼女はコレーなのだが。


「コレー様! 相変わらずお元気ですね!」


「私から元気の要素ををとったら何も残りませんよ!」


コレーは明るく元気な性格が取り柄である。


「あ………そうでしたね。」


シェレネは彼女の様子に苦笑する。


コレーはハデスやデメテルに内緒でたまにディアネス神国王宮の医師をしている。

また辺境ののどかな村に見習い二人とともに診療所を構え、年に2、3回彼女が診察する日を設けている。

腕がよく心の悩みまで聞いてくれる彼女は親しみを込めて人々から白衣の天使と呼ばれている。

本当にたまにしかいないので、コレーが診察する日は診療所の前には長蛇の列ができるのだ。

彼女はそれほどまでに人々から尊敬されていた。

彼女は特に名乗ってはいない。

シェレネとウィルフル以外の神々は「白衣の天使」の存在を知らない。

いや、「白衣の天使」の存在は知っているのだが、まさかコレーだとは想像もしていないのである。


会場は熱気にあふれていた。

神々の明るく楽しそうな声があたりには響いていた。

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