第4話 突然の来訪者 後編

「おはようございますわ、陛下! それにお妃様も。今日は庭園を案内してくださるそうね! せっかくですし、我が国について相談させて頂けませんこと? 陛下と2人でお話したいですわ」


今日も今日とて、ディアネス神国はリェーデ姫の接待で忙しい。


「そうか……それではあの池の周りを歩きながら話を聞かせて頂こう。我が妃よ、少しここで待っていてくれぬか?」


他国の姫君ということもあり、話はある程度聞いてやらなければならない。

ウィルフルはリェーデと歩き出した。


「……はい、わかりました……」


ぽつりと呟くように言ったシェレネの目は少しだけうるんでいた。


「クスン、陛下、酷い……お仕事だって分かってるけど〜!」


完全にウィルフルが行ってしまった後、耐えきれなくなった彼女は女神ヘラに泣きついた。


「わかったわかった。わらわから後で言っておくから泣くでない。帰ってきたら一緒に言いに行こうではないか」


幼子を慰めるように、ヘラは彼女の髪をなでながら慰めの言葉を投げかけた。




「陛下!」


「ウィルフル」


「ど、どうしたのだ、我が妃よ。しかも姉上まで」


いきなり迫ってくる可愛い嫁(違うけど)と怖いお姉ちゃん(怒れらるぞー)に、ウィルフルは困惑していた。


「酷いです〜! 私を放っておいてリェーデ姫と散歩しに行って!」


「いくら仕事だとしても、シェレネを1人にしては行けないのではないか?わらわはそう思うぞ」


「そ、その事か? それは悪かったと思っている。先程、別の者にも言われた」


ははは、と笑いながら、ウィルフルが謝る。


「う〜、ならいいですけど……」


「本当に悪かった。リズル王国についてなにか聞き出せるかもしれないと思ったが、向こうもなかなか口が堅いようだ」


「そうですか…」


「なにか企んでいそうだし、早めに国に返したいところなんだが…」


ふう、とため息をつくと、彼は天井を仰いだ。




「姫は!姫はいつまでこの国にいらっしゃるおつもりなのだ! 私は姫に幸せになって欲しいのに」


彼のいる客間に、不穏な空気が流れる。


「……そこのもの! 私に力を貸してくれ!」


「はい、フィン様」


彼はさっとお辞儀をすると、部屋から出て行った。




「今日は、お天気が良うございますわね。お城のお庭を案内して頂けませんこと?」


「はい、どうぞこちらへ」


リェーデが侍女に笑いかける。


「フィンも一緒にどう?」


「では、私も」


計画通りだというように、フィンは薄笑いを浮かべた。


「本当に素晴らしいお庭ね。少し、1人にしてくださる?1人でゆっくりお庭を見たいわ」


「はい、かしこまりました」


侍女達は去っていった。


「あの侍女達、なかなかいい侍女ね。お礼でもしようかしら……っ!!」


そう口にした瞬間、


「姫!お覚悟を!」


「何者です!?」


彼女は、いきなり後ろから襲われたのだ。


(もうダメだわ!)


ぎゅっと目をつむるリェーデ。

その時だった。


「リェーデ……姫?」


たまたま通りかかったシェレネが彼女に声をかけたのだ。


「くそっ、聖妃め!」


そのまま逃げようとした男を、衛兵が取り押さえる。


「大丈夫ですか? リェーデ姫……」


「だ……大丈夫でしてよ……お……妃さ……ま……」


あまりの出来事に、彼女の意識はそこで途切れた。




「う〜ん、ここは……?」


「あ……リェーデ姫……気づ、かれましたか?……」


「わ……私は確か庭で倒れて……」


「だから、ここへお通し、したのですが……」


リェーデが通された場所はシェレネの寝室。

そのことに気が付いた彼女は少したじろぐ。


「そうだわ……倒れて……倒れて……フ、フィンを呼んで頂戴!」


「はい、かしこまりました」


「私、あなたに謝らないといけないみたいね。そうよ。分かっているとは思うけど、私は陛下のところに嫁ごうとしていたわ。でも、あなたに借りを作ってしまったし、あなたと陛下はお似合いだもの。割って入れないわ」


「いえ、いい、です。と、言うか、犯人……誰かお分かりに?」


不思議そうにシェレネが問う。

そんな彼女に、リェーデははっきりと言った。


「そんなの決まっていてよ!」




「姫! お呼びでしょうか!」


「……フィン……」


バシッ

リェーデがフィンの頬を叩く。


「あなたが犯人ね、フィン!」


「な、なぜ……!」


彼女の推理力に、シェレネ驚きを隠せない、といったところである。


「さあ教えなさい! なんでやったの!」


「……姫は……幼い頃から私を大事だとおっしゃっていました……なのに……なのに……たかが国のために、私はもう妃のいる闇の神の所に嫁ぐなんて言って欲しくなかったのです! 大事な……姫ですから……」


「へ?」


「…………」


あまりの理由にあたりは静まり返る。


「ほんとにもう、呆れたわ。理由はそれだけ!? もういいわ。ほんとに。罪は……問わないわよ。はあ。帰国するわよ」


「え……良いのですか?」


「いいわと言ってるじゃない。行くわよ」


散々騒ぎを起こしたリズル王国は、あとで国王直々に謝罪に来たらしい。

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