第3話
暗がりのなかで、ユイカは目を覚ました。
どうやら、いつのまにか眠ってしまっていたらしい。
左手首の通信機を確認する。
2020年7月25日20;05──
まずい、半日ほど眠っていたようだ。
玄関に行くと、今日の夕食が配膳されていた。
白いパンと、パパイアのサラダ。
それと焦げのあるソーセージが2本。
正直、食べたいとは思わない。
この部屋に連れてこられて10日ほど経つけど、最近はずっとこんな調子だ。
ほぼ何もしないから、それほど腹も空かない。
やることといえば、決められた時間の検温と日記くらい。
せめて、絵くらい描かせてほしい。
そうすれば、少しは自分が今生きていると感じることができるのに。
──「神様が決めたことだから」
ユイカをここに連れてきた大人はそう言った。
──「神様の言葉には従わなければいけません」
わかっている。
だから、ある日いきなり見知らぬ人が現れて、病院につれていかれても、ユイカは素直に従った。
その後、家族と引き離されて、ひとりだけここに連れてこられたときも文句ひとつ口にしなかった。
だって「神様」が決めたことだから。
その神様がどこにいるのか、ユイカは知らないのだけれど。
油でテラテラしたソーセージをかじり、窓を開けた。
涼しい夜風に誘われて、半分にちぎったパンとともにベランダに出る。
黒々とした空には星こそ瞬いているものの、月はどこを探しても見つからない。
身体が重い。
まぶたが重い。
自分は、いつまでここにいればいいのだろう。
パサついたパンに歯をたてていると、チカチカと何かが点滅した。
学校の、プールのあたりから?
誰が? なんのために?
目をこらすと、黒い影がうごめくのが見えた。
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