鳩村もしくは夕凪ツナギはメンバーの新しい顔を知る

 「しっかし、ツナギ……かなりボロボロだな」

 痛ましそうに眉を顰め指摘され、改めて見れば顔や腕の火傷だけじゃなく、服も何カ所か焦げていたり、体のあちこちに走る鈍い痛みは逃げている最中にぶつけた結果だろう。一番目立つのは右膝からの流血だろうか。派手に転んだ自覚はあったが破けた布の周辺はまだ鮮やかな赤を広げている。

 「手当てできる場所って、あるんだっけ」

 「あるはずだけど、俺は覚えていない! なぜなら俺は道を覚えないから!」

 「そこ、自信満々に言っちゃダメじゃ……あ」

 “夕凪、私の声が聴こえたら端末にメッセージを”

 僅かに緊迫感を潜ませた声が頭に響いてツナギは虚空を見上げた。気が付けば集合予定時間はとっくに過ぎている。柊斗は怪訝そうに首を傾げ思い当たったように頷いた。

 「ね、ね、ツナギ。お仲間からのテレパシー?」

 「そう。奥園さんに送るには、あれ、端末の調子も悪い」

 「奥園って、奥園 深紅!?」

 「え、そうだけど……知っているの?」

 「深紅様に会えるチャンス! 俺、俺が連絡してやるよ。ツナギ」

 様付け? 疑問が増える一方なことにツナギは内心で頭を抱え、許可を求めて食い入るように見つめてながら迫ってくる柊斗を押し止めため息ひとつ。

 「わかった、頼む」

 「OK」

 気合を込めるように握りしめた拳が震えているのは歓喜か、緊張か、あるいは両方か。じっと見ているツナギに気付き、ぐっと親指を立てると柊斗は深呼吸をして顔を引き締めた。

 “思考の夜明けソート デイブレイク会員ナンバー7の綾辻 柊斗です。鳩村もしくは夕凪ツナギのトラブルに居合わせ、今一緒にいます。ツナギは動けますが負傷しており、端末も異常をきたしているようなので代わりに連絡をしました”

 少しの沈黙の後、奥園のテレパシーが返って来た。

 “連絡感謝するわ。夕凪の怪我はどの程度?”

 “右膝からの流血、多数の火傷、おそらく少なくない打撲も負っていると思われます。恥ずかしながら現在地も把握できておらず、手当てに移動できません”

 “わかったわ。そこから動かないで”

 “わかりました”

 「……ふぃ~、すっげー緊張したー」

 柊斗はテレパシーを終えた途端にその場にしゃがみ込んでしまった。

 「大丈夫?」

 「ん。ちょっと気力使い果たしただけ」

 「ありがとう。連絡してくれて。それで、あの会員って?」

 質問ばかりだと思いつつ、状況が状況だけに仕方がないと問いを重ねることにする。ツナギを仰ぎ見る柊斗は上気した顔に笑みを浮かべた。どこか誇らしげな、嬉しそうなそんな笑みを。

 「思考の夜明けソート デイブレイクってオンラインコミュニティがあって、その中心が深紅様……奥園 深紅さん。この国を変えたいんだって。そのためにトップに立つって決めてる。俺は彼女が掲げる誰もが思考し、理想を実現することを諦めない国を見たいし、一員になりたい。ただ理想を語り合うんじゃないんだ。どうすれば実現できるのかって議論して打てる手を打っていく。まぁ、俺はまだ全然参加できてないんだけど、同じ歳で揺るがない彼女のことすっげー尊敬してるんだ。同じ大学って聞いていつか会えたらいいなって思っていたけど……こんな早くに接点持つなんて、思ってなかったから」

 「奥園さん、そんな活動してるんだ」

 そういえば、一番の興味は最良の未来と言っていた。この大学を選んだのも2国4領45都府県の情報を効率良く集めるため。望む未来実現のための布石なのだろう。誰かが近付いてくる足音に2人の顔が瞬時に強張る。駆け寄ってくる足音の先、現れた姿に柊斗がぽかーんと口を開けて惚けること数秒。

 「え、天使!?」

 無意識か手のひらを合わせて凝視している柊斗の肩に手を置いてわかるわかると頷いた。

 「あの人は未来進化研究学総括の半弓先生」

 「天使?」

 「気持ちはすごくわかるけど、先生だから拝んじゃダメだと思う」

 「いや、だって、綺麗過ぎだろ」

 「鳩村もしくは夕凪ツナギさん、大丈、夫……じゃないね。すぐに手当てを。話はその後。奥園さんと清野さんは救護室で待ってもらっている。そっちの君も同行して……なんで拝まれているのかな?」

 ツナギの状態を見て表情を険しくした半弓が指示を出し、柊斗を見て首を傾げた。どう答えればいいものかと思案するツナギの視界にカタカタと震える体が見え慌てて名前を呼ぶ。なんだか目がどこかに行っている。

 「深紅様がいて、天使がいて、何この大学、凄すぎる……」

 「柊斗! 落ち着いて、柊斗! ……半弓先生、彼は彼でオーバーヒートしたみたいです」

 「うーん、手を引いたら歩いてくれそう?」

 「僕が引きます」

 半弓が手を引いたら本気で昇天されそうな気がする。

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