鳩村もしくは夕凪ツナギと風変わりな彼
まったくあいつらはしょうがないなー、といったぼやきを楽しそうに呟いている助けてくれた相手に礼を言わねばと思っていたがツナギの口から出たのは困惑めいた一言。
「僕、本当にシールド使えないんだけど」
「いいんだよ、はったりでも。そのうち本当になるかもしれないだろ⁉」
ぐるっと勢いよく向き直りまるで力を注入するように右手を突き出して、さもツナギがヘンなことを言ったかのような顔で彼は言い放った。その瞳、黒色に緑色がかかった不思議な色彩が明るく煌めく。あまりに自信に満ちているから
、そうなのかという気がしてきて、改めて彼は何者かと用心深く目を合わせた。二ッと人懐っこい笑みが浮かぶ。
「俺、
「えっと、聞きたいことは増えましたが、助けてくれてありがとうございました。僕は未来進化研究学専攻の鳩村もしくは夕凪ツナギです。同じく登校2回目です」
「かったいなー。違う学科だと警戒してる? 俺、ああいう奴ら嫌いだから助けるついでにふっ飛ばしたってこと。あーすっきりした!」
思わずツナギは小さく噴き出した。なんと明るい清々しい人間なのか。ツナギが笑ったことでどことなく嬉しげな顔をしているのが目に入り覚えた気恥しさを紛らわすように乱れた髪を払う。
「すいません、この口調は標準装備です」
「標準装備! クールに見えて実は面白いだろ、えっと……」
「呼び方はお好きに……」
「じゃあ、ツナギだな。……どした?」
普通にあまり距離を取らずに話していることに気付き、自分は兎も角綾辻はどうなのかと窺い見た視線に柊斗がかくりと首を傾げた。
「テレパシー使わないで話しているなとか、シールド張ってないなとか」
「こんな近くで使う必要ないだろ? それに、俺が下手に使ったらツナギが怪我する。俺、ふつーのシールドは使えねぇからさー」
しゃがみ込み、ダメ? と言いたげな上目遣いの目力にダメじゃないと緩く首を振り返す。こういう人間もいるんだなと胸に広がったのは温かいもので目線を合わせるべくツナギもしゃがんだ。
「正直、うれしいです。僕はテレパシーも受信しか使えないから」
「俺もうれしいぞ。あの攻撃シールド見て逃げちゃうやつ多いのに、ツナギは全然怖がらないし」
「? 格好良いですよね?」
「いやおや、お世辞……じゃないんだな、天然な。うわ、照れる」
ぼわっと顔を赤くして柊斗は近くに落ちていた小枝を拾って地面にぐりぐりと丸を量産した。丸が十数個に達して柊斗はまだ赤らむ顔を片手で仰ぎながらツナギを見た。
「ツナギには絶対すごい力があると思うぞ」
「え、なんで?」
「俺の勘。それに俺の研究テーマは信じれば発現する。ね、信じてみてよ」
「……研究?」
「だけじゃなくって、友達がいじめられるの見たくないじゃん」
照れ隠しの意地悪な返しは見事に撃沈した。今度はツナギの顔が赤くなる番だった。その反応を楽しんでいた綾辻が長い沈黙に居心地悪くなり、困り顔で焦るに至りようやくツナギは笑みを浮かべた。
「友達の研究協力ならいいよ、綾辻」
「やった。あ、名前呼び希望する!」
いきなり名前呼びは抵抗があるなと思うも期待に満ちた目力に負けて本当に小さく「柊斗」と呟く。
「おう!」
あんまりにもうれしそうな顔をするから反応に困って尻尾があったら千切れんばかりに振られているんだろうな、と思考をずらす。ずいっと手が差し出された。今度の望みはよろしくの握手のようだ。躊躇は一瞬、ぐっと強く握れば柊斗がちょっと驚いた顔をして、すぐ満足げに強く握り返した。
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