鳩村もしくは夕凪ツナギの木曜日のチームメイト

 “木曜登校の人……2人ともさっき会ったわね。私のところに来てくれる?”

 教壇の近くから視線を投げかけていた奥園の傍に移動して、さっきと同じように席をひとつ空けて座る。漆黒の髪を肩の上で切り揃えた色白、切れ長の瞳。近くで改めて見ると雪女というよりも刀のようだと感じる。清野は特徴がないことが特徴だろうか。背だけは高い。それなのに存在が薄い。

 “改めて奥園 深紅しんく、2国4領45都府県の情報を効率良く集めるために選んだわ。一番の興味は最良の未来よ”

 “全カ所に大学を建てているのは、ここだけだものね……。僕は清野せいの 彩人あやと、声が出せないからテレパシーが主になると思う。声が出ない代わりにテレパシーの送受信範囲は強いみたいだ。でもたまにテレパシーが面倒なくらい短い意志疎通なら首振りだけになるけど。まぁ、よろしく”

 さっきの首振り反応は面倒だったのか……つかめない人だと思いながらツナギはさっき打ち込んで保存していた文面をそのまま見せた。

 『僕は鳩村もしくは夕凪ツナギ。テレパシーの受信のみしか使えないから面倒をかけると思います。シールドも使えません』

 『受信範囲は相当広いので呼んでくれればすぐに向かいます。僕は使えない理由を知りたいし、どうやってみんなの能力が発現したものかも知りたい。この先、どんな未来になるのかも気になる。だから、選びました。宜しくお願いします』

 “能力発現なら異能開花研究学の方が良かったんじゃない?”

 『正直迷いましたが、防疫が発現のきっかけとするならこの先、また何かをきっかけに人間は能力を発現させて、発明や研究をして変わっていく。皆と同じじゃないのは僕だけではないから、暮らしやすい未来の中に少数も含まれるだろうか。そう考えた時、能力は付随するもので、本当に気になるのは未来だなって』

 “なるほど、理解したわ。よろしく……なんて呼ばばいい? っていうか、その長い名前はフルネームなの?”

 “夫婦両姓だよね?”

 『はい、夫婦両姓です、なので、お好きに呼んでください。呼び捨てでいいです』

 “じゃあ、夕凪と呼ばせてもらうわ。一番言いやすいみたいだから。あなたは清野でいいかしら”

 “はい。あ、言い忘れていた。僕は建築に興味があるんだ。未来にも色んな分野があると思うけれど、この先の建築がどう変わるか。今の最新技術が多く取り入れられた場所といえばここだからね”


 2国4領45都府県。世界激変が一番大きかったのは政治かもしれない。中央政治が後手に回り続け、地方ほど救済が滞った。業を煮やした知事は独立を決め、当時できうる限りの手段をもって外国に国と認められる定義を確立したといわれる。それが2つの地域。かつて大阪、北海道と呼ばれていた地域は国として興って防疫にも大きな指針を示したという。ちなみに北海道はとても広く大きかったため、中央都市を除く東西南北4領に分かれ独自の風土を守るようになったという歴史がある。

 民により多く救済をもたらすものが長。自分が信ずるものが長。明確に定められた国の代表はいないのが現在だ。

 奥園はおそらく長を目指しているのだろう。ツナギはひっそりと考える。彼女が長になったらどんな世界になるのだろうと。


 “清野、あなた、年上?”

 “僕は25、2人は19歳かな?”

 “そう”

 ツナギも頷く。言動から年上とは感じていたけれど、25とは少し驚いた。そりゃあ、大学は年齢問わずだけど。そんな気持ちが顔に出ていたか清野は肩を竦めて笑った。

 “建築に興味があり過ぎて、バイトしては旅をして写真撮りまくっていたんだ。そのうち旅先で会った人に、それなら大学に行った方が情報集まるし、授業の一環で旅もできるんじゃないかって言われてね。目から鱗だった。で、有りだと思って一念発起して受験したってわけ。あ、年上だからって敬語とか、さん付けとかはいらないよ。同じ生徒なんだから”

 “色んな人間がいるわね。それだけでも大学を選んだ意義がある” 

 奥園がうっすら笑みを浮かべると凄味が出る。

 “入学論文を見せ合うまでもなく、結構お互いの傾向は見えたっぽいね”

 “同感。私、図書館に行きたいのよね”

 『僕も行きたいです。ここ受験した目的、図書館もあるんです』

 “奇遇だね、僕も。……じゃあ、次回登校日は図書館満喫、最後の30分くらい互いの収穫を話す、で、どう?”

 “夕凪も意義ないみたいね。そうしましょう”

 “じゃあ、木曜日に図書館で”

 清野はひらっと手を振ると真っ直ぐ喜王のところに歩いて行った。報告は任せていいらしい。奥園は目礼して帰り支度を始める。端末が鳴ってツナギは掲示板を表示した。火曜日メンバーの報告は国立がしてくれたらしい。では、ツナギも後は帰るだけだ。見渡せばいつの間にかほぼ全員支給されたコートを羽織っていた。小中高と私服が普通だったから、全員が同じコートを着るというのは新鮮だ。寧ろ特別な感じがして高揚しているのはツナギだけではないだろう。自分の名が記された専用コート。登校時よりも誇らしげに出ていく同科生にツナギも続く。

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