鳩村もしくは夕凪ツナギの波乱な登校日
背の高い男性と思われる人が糸のような目を笑みの形に変えて歩み寄ってきた。肩を超す長い髪を緩く三つ編みにしているのと、流れるような歩き方は女性といわれても違和感はなく気が付けば凝視していた。
「咲花大学へようこそ。鳩村もしくは夕凪ツナギさんですね」
「はい」
「私は本日の案内人に選ばれた未来進化研究学専攻3年の
「よろしくお願いします」
低く色気のある声。握手を求めるように右手を伸ばされ珍しいと思った。管理され対策をうっている学内だから良いのかとツナギも手を伸ばしかけて、片耳を塞いだ。頭の中で音が爆発したような衝撃。
“—―そいつは偽者だ!”
弾かれるように飛びのくと無害に見えた細目の先輩は目を見開き、にやりと口角を吊りあげた。様子がおかしいのに気が付いたツナギの後ろから来ていた新入生が駆けてくる音を聴きながら慎重に口を開く。
「あなたは、誰ですか」
「名乗ったろ?」
「偽者だって誰かが叫びました」
「へぇ……お前、知らないやつの声も聴けるんだ」
「!」
緊張した表情のツナギ、駆けつけてきた新たな4人を舐めるように見て楽しそうに男は微笑った。男の背後も騒がしくなってきた。大げさにため息をついて踵を返した男は肩越しに振り返った。
「3年と喜王は嘘言ってないぜ。俺は喜王
「名字?」
「夕凪、奥園、唐崎、清野、雪乃。ただの偶然でも名字が一緒なら発現確率や傾向が似るか調べたい。ふん、わけがわからなくていいんだよ、モルモットはその方が良いデータが取れる」
「黙った聞いていればふざけたこと言ってんじゃねぇ……ぶっ殺すぞ」
赤く染めた髪をツンツンにした目つきの悪い青年が我慢の限界といった風に凄む。本気で殴り掛かりそうな様子にツナギは思わず淡々と突っ込んだ。
「いや、殺しちゃダメじゃ」
「あぁ!? お前が一番危なかったんだろ、何落ち着いてんだバカ」
「足して二で割ると平和に話せるよ、そうしよう!?」
「できるわけねぇーだろ、誰だてめぇ」
「あ、え、
「オレは唐崎 ナギだ。初登校のやつしか今時分に門潜らねぇだろ、わざわざ言わなくてもいいっつーの」
「確かに。……ああ、私は奥園
気弱そうな少年に見えるのが雪乃、ガラが悪いが礼儀は重んじている気がする赤髪の青年が唐崎、一見雪女という印象のクールビューティーが奥園、背後で未だ一言も声を発さず頷いたり首を振っている青年が消去法で清野とツナギはとりあえずの認識を頭に入れた。
気が付けば5人(4人?)が話している間に元凶の男は消えていた。そして気付く離れた場所から近寄ってくる全く雰囲気が違う直前までいたのと同じ顔に。否応なしに5人が緊張を浮かべたのも無理ないことだろう。
「だから私を案内人にしない方がいいって言ったんですよ、絶対アイツが何かやらかすって」
「そこまで警戒していてなんで閉じ込められちゃうの?」
「問題をすり替えないでください、先生」
「まずは新入生じゃないかい?」
「~~~~っ、弟が大変ご無礼、ご迷惑おかけしました。本物の未来進化研究学専攻3年の
「未来進化研究学総括を務める
5人はぽかんと名乗った教諭を見てほうけた。淡い茶色の腰まである髪は頭頂にエンジェルリングが見える艶やかさ。瞳は少し青みがかった不思議な色。背後に光と花を背負っているような幻を感じるほどのキラキラとした存在感。天使画から抜け出してきたと言われたら納得する優しさが溢れ出る美貌。
“天使がいる”
頭に響いた声に唐崎までも頷いた。そのテレパシーは教諭にも聞こえていたらしい。半弓は苦笑を浮かべた。
「それ僕のあだ名だよ、恐れ多いよね。じゃあ、改めてようこそ咲花大学へ。オリエンテーションに行こうか」
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