第2話

マンションの前では、近所のおばさん達が群がって話していた。

琴乃は依然として、僕にぴったり寄り添って離れない。当然、おばさん達は僕達を好奇の目で見てくる。

僕と琴乃は速足で、その場を切り抜けようとした。

「あら、風馬君に琴乃ちゃん。今日から夏休み?」

結局、おばさん達に捕まった。

「早いわねぇ、もうそんな時期なのね」

そのおばさんの甘い口調がどうにも鼻についた。子供扱いされてるようで、嫌なのであった。

「はぁ、そうですね」

無言というのも、無愛想なので、小声ながら相槌をうった。

「ところで2人は夏休みにお母さんと、どこか行くの?」

詮索にどこか、うんざりしていると、琴乃が僕の腕を引いた。

「すいません。あたし達、お昼まだなんで」

と、うまくはぐらかしたのであった。

おばさん達は面を食らっていた。

そして、僕は琴乃に引っ張られるようにして、マンションに入り、エレベーターにすべりこんだのであった。

僕らのようなシングルマザーの家庭が、噂のネタになることは百も承知していた。

「あの人達は風馬のこと気に入ってると思うけど?『可愛い』ってさかんに噂されてるし」

「琴乃だって、みんなに可愛いって言われてるじゃんよ。あんまり態度わるいと、またあることないこと言われちゃうよ?」

「もう、ウチの噂はどうしようもないんだよ」

琴乃の表情に影がさしていた。

「そんなこと言ってるのって、一部の暇な人だけでしょ?気にしてたらきりないって」

「まあさ、そりゃあ、ウチだって他人のことばっかり、あれこれ言うのは中身のない人間だって分かってるつもりだけどさ」

琴乃は顔を紅潮させて、鞄の紐を強く握りしめていた。懸命に強がっているのが、あらわになっていた。

エレベーターが琴乃の住む7階に止まった。

「じゃあ、またヒマな時にでも行くからね。バイビー。あ、あと時子ママに、昨日のエクレア、ごちそうさまって、ウチのママが言ってたから伝えといてね」

僕はそっと頷いた。

エレベーターの閉まり際に、そっと琴乃に手を振った。

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