夏色キャンディー

風子

第1話

層の厚い雲が空にたちこめていた。少しばかり蒸し暑いが、いつもと比べれば、ずっと過ごしやすかった。

今日は一学期の終業式であった。明日から夏休みという、せっかくの高揚感も、あいにくの天気に水を差された。

学校の通りから続く並木道。青々とした葉が今朝の小雨で濡れていた。

「風馬!一緒に帰ろう」

背後から、甲高い声がした。振り向く間もなく、肩から首にかけて腕が回されていた。

同級生の琴乃であった。

周辺を歩く低学年は僕らを見て、呆気にとられていた。琴乃の長い髪が僕の鼻にかかり、リンスの匂いが香った。

彼女は周囲の目を気にしてか、ようやく絡めていた腕をほどいた。そして横並びで歩きだしたのであった。

「ぼんやりとして、何か考えてたの?」

「明日からのことをね」

「ふうん。風馬は今年はどこかに出かけたりはしないんでしょ?」

「母さんの仕事が忙しいからね。琴乃は?」

「まあ、今年は国内で落ち着くんじゃないかな。ママさ、去年のハワイでの出来事がトラウマになってるからさ」

琴乃の母親は去年の夏にハワイで、バックを盗まれたのであった。帰国してから散々、僕の母親にグチっていた。

琴乃は僕より五センチほど、背丈が高い。並んで歩いていると、そのことが際立った。それと、日本人離れした華やかな顔立ちのせいもあって、小学六年生にはまず見えなかった。

またもや、不必要に琴乃は肩を擦り寄せてきた。彼女はいささか、ませていてスキンシップが人一倍激しかった。

もうじき、家に着く。このままでは、さすがに気まずかった。それでも、生来の優柔不断さが彼女を遠ざけることを臆してしまうのであった。

「風馬さ、時生と最近、仲良いよね。夏休みは遊んだりしないの?」

「たぶん、遊ぶと想うよ。琴乃こそ、藤田さんと遊んだりするんでしょ?」

「陽菜ねえ。行き先が、図書館とか美術館とか植物園とか、お堅い場所になりかねないからな。それに陽菜の家こそ、家族揃ってどっか旅行行くんじゃない?それは時生の家にも言えるけど」

「言われてみればそうだね。聞くの忘れてたわ」

話しているうちに、僕と琴乃の住居であるマンションが見えてきた。ヨーロピアン調のベージュ色の外壁に、ブラウンと黒のバルコニー。僕はこの色合いが気にいっていた。特に今日みたいに、少しばかり曇っているような天候ではよく映えるのであった。


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